ウルトラマンの故郷はM78ではなく、当時話題となった活動銀河・M87の予定だったらしい。閃光(せんこう)を放ち活発に活動するM87こそが、ヒーローにふさわしいイメージだったのだろう。
もしも活動銀河がやって来たらどうなるのか?プラズマと電磁波を噴射し、手当たり次第に星を飲み込む活動銀河核に襲われたら、地球はおろか太陽系さえ無事では済まないだろう。
■宇宙の殺人ジェット
地球は太陽を公転し、太陽系は銀河系(天の川銀河)を公転している。自転、太陽系の公転、銀河系の公転を合わせると、遊園地の乗り物・コーヒーカップのように、地球は複雑な軌道を描いている。
惑星や恒星を従えて星系を成すには、強い重力を持った天体が必要だ。太陽が太陽系の中心でいられるのも、地球の33万倍もの質量が理由だが、その太陽系を公転させるのだから、銀河系にはさらに大質量天体が存在することになる。
銀河系の中心には何があるのか?答えは巨大ブラックホールだ。太陽の400万倍の質量を持ったブラックホールが、地球から2万8,000光年離れた「いて座Aスター」と呼ばれる領域に存在し、天の川銀河の中心・銀河核を成しているのだ。
銀河系の中心を電波望遠鏡で撮影すると、いて座Aスターは非常に明るく写る。この巨大ブラックホールに落ちた物質が、重力エネルギーを失い電磁波へと変わっているからだ。電磁波以外にも可視光線、赤/紫外線、エックス/ガンマ線を発する銀河核は活動銀河核と呼ばれ、明るさを目安に名前が異なる。
・太陽光度の100億倍未満 … ライナー
・100億~1兆倍 … 電波銀河、セイファート銀河
・1兆倍以上 … 電波の強いクェーサー、電波の弱いクェーサー
正体はどれもブラックホールだ。太陽の名を冠して太陽系と呼ぶなら、天の川をはじめ、ほとんどの銀河はブラックホール系と呼ばれるべきだろう。
活動銀河核の統一モデルは、中心のブラックホール、その周囲に高温の降着(こうちゃく)円盤、一番外側にはドーナツ状に集まった塵(ちり)やガスの集まり・トーラスから構成される。
ブラックホールがエンジンなら、降着円盤は燃焼室、トーラスは燃料タンクの役割を果たし、変換効率42%を誇る優秀な機関だ。ただし作り出されるのは電磁波やエックス線などの有害物質だから、迷惑この上ないのだが。
ブラックホールに引き込まれた物質は、降着円盤での摩擦で高温となり、光速の90%近い速度となって吹き出される。その際に電子と光子の衝突や降着円盤から受ける紫外線が強力なX線を生み出し、殺人ジェットとなって発射されるのだ。
電波銀河や電波の強いクェーサーは、さらに危険な電波ジェットを発射する。100万電子ボルトを超える強烈なエネルギーが光子に加わり、電子とその反物質・陽電子を対(つい)生成し、ペアプラズマが作り出されるからだ。
反物質入りのプラズマを磁場で加速しシンクロトロン放射するのだから破壊力は満点だ。光速に近づいた電子は質量が増大し、指向性の高い放射光になるので、電波ジェットは細い光のまま、数千光年先まで噴射される。まれに拡散して電波ローブとなることもあるが、広範囲に被害が及ぶのでぜひともご遠慮いただきたい。
■銀河核の吸収合併
莫大なエネルギーを発する活動銀河核には大質量ブラックホールが必要だが、巨大なブラックホールはどのように生まれるのか?もっとも有力なのはブラックホール同士の合体説だ。
あまりにも重い天体は自分の重力で崩壊するため、銀河の中心にいるのはブラックホールの可能性が高い。また、太陽系が公転しているように銀河も移動しているので、別の銀河と出会いブラックホール同士が衝突しても、さほど不思議ではないのだ。
2つのブラックホールが出会うと、まずは様子をうかがうように相手の周りを周回する。初対面の犬が相手の情報を得ようと、互いの尻を嗅(か)ぎながらクルクルと回るシーンがあるが、ブラックホールも同様に回り続け、いきなり衝突することはない。互いに相手を追いかけるように周回しながら、だんだんと距離を縮めて合体するのだ。
大きな渦巻銀河の合体メジャー・マージャーでは何が起きるか?惑星/恒星がぶつかり粉々になる姿を想像するが、銀河の密度は低いので星の衝突はほとんど起きない。
その代わり水素やヘリウムなどの星間ガスが激しくもみ合い、高密度のガス雲が生じる。やがてガス雲を材料に、星が活発に誕生するウルトラ・スターバーストが起きるのだ。そのころにはブラックホールの合体も終わり、クェーサーへと進化を遂げている。小規模なマイナー・マージャーでもセイファート銀河に発展するので、活動銀河核は合体するたびに強さを増していく。
ブラックホール対決は質量の大きい方が勝つ。宇宙の果てで繰り広げられる、究極のM&Aだ。
負のイメージが強いブラックホールも、スターバーストを起こして新たな星を生むなら、生命の源と考えるべきかもしれない。ただし生まれた星を飲み込むなら、子を糧(かて)に命をつなぐ鬼子母神と呼ばれても反論の余地はないのだが。
■まとめ
我々の住む天の川銀河は、40億年後にアンドロメダ銀河と合体するとNASAが発表した。2つの銀河は250万光年も離れているが、時速40万kmで近づいているから衝突は避けられない。
星同士がぶつかる可能性は低いので、おそらく地球も生き延びるだろう。スターバーストで生まれた新星系に組み込まれ、新たな地球で暮らすのも悪くないだろう。
(関口 寿/ガリレオワークス)
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もしも活動銀河がやって来たらどうなるのか?プラズマと電磁波を噴射し、手当たり次第に星を飲み込む活動銀河核に襲われたら、地球はおろか太陽系さえ無事では済まないだろう。
■宇宙の殺人ジェット
地球は太陽を公転し、太陽系は銀河系(天の川銀河)を公転している。自転、太陽系の公転、銀河系の公転を合わせると、遊園地の乗り物・コーヒーカップのように、地球は複雑な軌道を描いている。
惑星や恒星を従えて星系を成すには、強い重力を持った天体が必要だ。太陽が太陽系の中心でいられるのも、地球の33万倍もの質量が理由だが、その太陽系を公転させるのだから、銀河系にはさらに大質量天体が存在することになる。
銀河系の中心には何があるのか?答えは巨大ブラックホールだ。太陽の400万倍の質量を持ったブラックホールが、地球から2万8,000光年離れた「いて座Aスター」と呼ばれる領域に存在し、天の川銀河の中心・銀河核を成しているのだ。
銀河系の中心を電波望遠鏡で撮影すると、いて座Aスターは非常に明るく写る。この巨大ブラックホールに落ちた物質が、重力エネルギーを失い電磁波へと変わっているからだ。電磁波以外にも可視光線、赤/紫外線、エックス/ガンマ線を発する銀河核は活動銀河核と呼ばれ、明るさを目安に名前が異なる。
・太陽光度の100億倍未満 … ライナー
・100億~1兆倍 … 電波銀河、セイファート銀河
・1兆倍以上 … 電波の強いクェーサー、電波の弱いクェーサー
正体はどれもブラックホールだ。太陽の名を冠して太陽系と呼ぶなら、天の川をはじめ、ほとんどの銀河はブラックホール系と呼ばれるべきだろう。
活動銀河核の統一モデルは、中心のブラックホール、その周囲に高温の降着(こうちゃく)円盤、一番外側にはドーナツ状に集まった塵(ちり)やガスの集まり・トーラスから構成される。
ブラックホールがエンジンなら、降着円盤は燃焼室、トーラスは燃料タンクの役割を果たし、変換効率42%を誇る優秀な機関だ。ただし作り出されるのは電磁波やエックス線などの有害物質だから、迷惑この上ないのだが。
ブラックホールに引き込まれた物質は、降着円盤での摩擦で高温となり、光速の90%近い速度となって吹き出される。その際に電子と光子の衝突や降着円盤から受ける紫外線が強力なX線を生み出し、殺人ジェットとなって発射されるのだ。
電波銀河や電波の強いクェーサーは、さらに危険な電波ジェットを発射する。100万電子ボルトを超える強烈なエネルギーが光子に加わり、電子とその反物質・陽電子を対(つい)生成し、ペアプラズマが作り出されるからだ。
反物質入りのプラズマを磁場で加速しシンクロトロン放射するのだから破壊力は満点だ。光速に近づいた電子は質量が増大し、指向性の高い放射光になるので、電波ジェットは細い光のまま、数千光年先まで噴射される。まれに拡散して電波ローブとなることもあるが、広範囲に被害が及ぶのでぜひともご遠慮いただきたい。
■銀河核の吸収合併
莫大なエネルギーを発する活動銀河核には大質量ブラックホールが必要だが、巨大なブラックホールはどのように生まれるのか?もっとも有力なのはブラックホール同士の合体説だ。
あまりにも重い天体は自分の重力で崩壊するため、銀河の中心にいるのはブラックホールの可能性が高い。また、太陽系が公転しているように銀河も移動しているので、別の銀河と出会いブラックホール同士が衝突しても、さほど不思議ではないのだ。
2つのブラックホールが出会うと、まずは様子をうかがうように相手の周りを周回する。初対面の犬が相手の情報を得ようと、互いの尻を嗅(か)ぎながらクルクルと回るシーンがあるが、ブラックホールも同様に回り続け、いきなり衝突することはない。互いに相手を追いかけるように周回しながら、だんだんと距離を縮めて合体するのだ。
大きな渦巻銀河の合体メジャー・マージャーでは何が起きるか?惑星/恒星がぶつかり粉々になる姿を想像するが、銀河の密度は低いので星の衝突はほとんど起きない。
その代わり水素やヘリウムなどの星間ガスが激しくもみ合い、高密度のガス雲が生じる。やがてガス雲を材料に、星が活発に誕生するウルトラ・スターバーストが起きるのだ。そのころにはブラックホールの合体も終わり、クェーサーへと進化を遂げている。小規模なマイナー・マージャーでもセイファート銀河に発展するので、活動銀河核は合体するたびに強さを増していく。
ブラックホール対決は質量の大きい方が勝つ。宇宙の果てで繰り広げられる、究極のM&Aだ。
負のイメージが強いブラックホールも、スターバーストを起こして新たな星を生むなら、生命の源と考えるべきかもしれない。ただし生まれた星を飲み込むなら、子を糧(かて)に命をつなぐ鬼子母神と呼ばれても反論の余地はないのだが。
■まとめ
我々の住む天の川銀河は、40億年後にアンドロメダ銀河と合体するとNASAが発表した。2つの銀河は250万光年も離れているが、時速40万kmで近づいているから衝突は避けられない。
星同士がぶつかる可能性は低いので、おそらく地球も生き延びるだろう。スターバーストで生まれた新星系に組み込まれ、新たな地球で暮らすのも悪くないだろう。
(関口 寿/ガリレオワークス)
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