超大質量恒星が断末魔に放つガンマ線バースト。それは宇宙で最も明るく、最も強力な殺人光線だ。
もしもガンマ線バーストが地球を直撃したらどうなるのか?電磁波がオゾン層と送電網を破壊し、大気汚染と酸性雨が植物を枯らし、深海や地中の生命までもがミューオンに奪われる。6度目の大量絶滅を、心ゆくまで堪能することになる。
■ブラックホールの一撃
恒星は自らを燃料にして光と熱を発している。以前、太陽の最後をご紹介したが、水素からヘリウム、炭素へと核融合を進めるプロセスはほかの恒星も同じだ。太陽の場合、水星と金星を飲み込むほどに巨大化したのち、白色矮(わい)星となって一生を終える。
中心核(コア)は炭素へ変わっているが、エネルギーを使い果たし核融合できなくなった太陽は収縮し、くすぶりながら生涯を終える。
太陽より質量の大きい恒星は豊富なエネルギーにものを言わせ、炭素から酸素、ネオン、マグネシウムへと核融合を進める。ケイ素や鉄に進むと、太陽とはケタ違いに高密度なコアが形成される。どんなに大質量の恒星でも、エネルギーを使い果たせば収縮するのは同じだが、高密度すぎるコアは自分の重力に耐え切れず、重力崩壊を起こすのだ。
太陽の8倍ぐらいの恒星は、いったん中心に向かって収縮したのちに、はじめるように外側へ広がり超新星爆発を起こす。10~20倍クラスになると電子が原子核に押し込まれ、原子そのものが崩壊し、中性子星と呼ばれる流動体へと変化する。
さらに質量が大きくなると、核は急激に収縮し、外層を残したまま中心にブラックホールが生まれる。宇宙で一番やっかいなヤツが、星の中に誕生するのだ!
外層はブラックホールに飲み込まれながらも、自転に引きずられてドーナツ状に変形する。自転が高速だと降着(こうちゃく)円盤と呼ばれるうずに変わる。CDメディアの穴にビー玉サイズのブラックホールを押し込んで、コマのように回転させたような状態だ。
降着円盤は一体ではないので、高速で回転する中心付近は、遅い外周部と摩擦が生じて高温となる。遠心力を利用して飛び出そうとしても、外側の物体がジャマして脱出できない。重力、遠心力、回転、摩擦の4重苦は、降着円盤のエネルギーを高め続ける。
やがて限界を超えた降着円盤は、角速度の遅い自転軸に活路を見いだす。そして渾身の力を振り絞り、ジェットと化して両極から飛び出す。「ガンマ線バースト、自転軸上に照準」
ブラックホールの強大な重力を逃れたジェットは、ほぼ光速で外層を突き破る。その衝撃波は火の玉、ガンマ線、磁場を生み出し、高エネルギーのビームに生まれ変わる。「対星戦闘。ブラックホール指示の目標、打ちぃかた始めっ!!」
そして地球に襲いかかる。太陽の百京(=10の18乗)倍ものエネルギーが、光の束となって地球に降り注ぐ。10秒、20秒、そして消える。長くても1~2分程度で、これを浴びてもあなたが蒸発したり、海が干上がることはない。
何が起きたのか?と考える必要はない。「おまえは、もう死んでいる」のだから。
■最凶の素粒子
7,500光年離れたりゅうこつ座・イータ星は2つの恒星から成り立つ連星で、合わせて太陽の100倍の質量を誇る。イータのような大質量恒星こそが、ガンマ線バーストの源となるのだ。
もしもイータのGRBが地球を直撃したらどうなるのか?まず電磁波が送電網に大電流を誘導し、発電所・変電所を破壊する。強固なシールドがない限り、放送局やデータセンター、携帯の基地局は壊滅、コンピューターや家電ももちろん全滅だ。やがて制御不能になった人工衛星が次々と墜落し、地上は火の海となる。
閃光(せんこう)はオゾン層を破壊し、紫外線/エックス線/ガンマ線を地上へと導く。大気を通過する宇宙線は窒素を分解し、呼吸器に深刻なダメージを与える二酸化窒素や硝酸を生み出す。動物はおろか植物も生きられない。直撃側は死の半球と化すのだ。
とどめはミューオンだ。大気中の分子に当たった宇宙線は、細胞やDNAを破壊する素粒子を生み出す。中でも有害なミューオンは水深1,500mまで透過し、800mの岩盤をも貫くから海中や地下の生命をも根絶する。たとえ生き延びられたとしても、ガンや染色体異常で悲惨な末路をたどるだけだ。
■まとめ
過去5億年間に、地球は5回の大量絶滅を経験した。そのうちオルドビス紀末の大量絶滅は、ガンマ線バーストが原因という説が強く、6,000光年以内の恒星から発射されたと考えられている。
もしイータに狙われても、地球が滅びるのは7,500年後だ。宇宙の広さを感じながら、太古の光で死ねるなんて、壮大な死にかたに感謝すべきかもしれない。
(関口 寿/ガリレオワークス)
【関連リンク】
もしも科学シリーズもしも太陽が近づいたら
もしも科学シリーズもしも可聴範囲が広がったら
もしも科学シリーズもしも恐竜と暮らすなら
もしもガンマ線バーストが地球を直撃したらどうなるのか?電磁波がオゾン層と送電網を破壊し、大気汚染と酸性雨が植物を枯らし、深海や地中の生命までもがミューオンに奪われる。6度目の大量絶滅を、心ゆくまで堪能することになる。
■ブラックホールの一撃
恒星は自らを燃料にして光と熱を発している。以前、太陽の最後をご紹介したが、水素からヘリウム、炭素へと核融合を進めるプロセスはほかの恒星も同じだ。太陽の場合、水星と金星を飲み込むほどに巨大化したのち、白色矮(わい)星となって一生を終える。
中心核(コア)は炭素へ変わっているが、エネルギーを使い果たし核融合できなくなった太陽は収縮し、くすぶりながら生涯を終える。
太陽より質量の大きい恒星は豊富なエネルギーにものを言わせ、炭素から酸素、ネオン、マグネシウムへと核融合を進める。ケイ素や鉄に進むと、太陽とはケタ違いに高密度なコアが形成される。どんなに大質量の恒星でも、エネルギーを使い果たせば収縮するのは同じだが、高密度すぎるコアは自分の重力に耐え切れず、重力崩壊を起こすのだ。
太陽の8倍ぐらいの恒星は、いったん中心に向かって収縮したのちに、はじめるように外側へ広がり超新星爆発を起こす。10~20倍クラスになると電子が原子核に押し込まれ、原子そのものが崩壊し、中性子星と呼ばれる流動体へと変化する。
さらに質量が大きくなると、核は急激に収縮し、外層を残したまま中心にブラックホールが生まれる。宇宙で一番やっかいなヤツが、星の中に誕生するのだ!
外層はブラックホールに飲み込まれながらも、自転に引きずられてドーナツ状に変形する。自転が高速だと降着(こうちゃく)円盤と呼ばれるうずに変わる。CDメディアの穴にビー玉サイズのブラックホールを押し込んで、コマのように回転させたような状態だ。
降着円盤は一体ではないので、高速で回転する中心付近は、遅い外周部と摩擦が生じて高温となる。遠心力を利用して飛び出そうとしても、外側の物体がジャマして脱出できない。重力、遠心力、回転、摩擦の4重苦は、降着円盤のエネルギーを高め続ける。
やがて限界を超えた降着円盤は、角速度の遅い自転軸に活路を見いだす。そして渾身の力を振り絞り、ジェットと化して両極から飛び出す。「ガンマ線バースト、自転軸上に照準」
ブラックホールの強大な重力を逃れたジェットは、ほぼ光速で外層を突き破る。その衝撃波は火の玉、ガンマ線、磁場を生み出し、高エネルギーのビームに生まれ変わる。「対星戦闘。ブラックホール指示の目標、打ちぃかた始めっ!!」
そして地球に襲いかかる。太陽の百京(=10の18乗)倍ものエネルギーが、光の束となって地球に降り注ぐ。10秒、20秒、そして消える。長くても1~2分程度で、これを浴びてもあなたが蒸発したり、海が干上がることはない。
何が起きたのか?と考える必要はない。「おまえは、もう死んでいる」のだから。
■最凶の素粒子
7,500光年離れたりゅうこつ座・イータ星は2つの恒星から成り立つ連星で、合わせて太陽の100倍の質量を誇る。イータのような大質量恒星こそが、ガンマ線バーストの源となるのだ。
もしもイータのGRBが地球を直撃したらどうなるのか?まず電磁波が送電網に大電流を誘導し、発電所・変電所を破壊する。強固なシールドがない限り、放送局やデータセンター、携帯の基地局は壊滅、コンピューターや家電ももちろん全滅だ。やがて制御不能になった人工衛星が次々と墜落し、地上は火の海となる。
閃光(せんこう)はオゾン層を破壊し、紫外線/エックス線/ガンマ線を地上へと導く。大気を通過する宇宙線は窒素を分解し、呼吸器に深刻なダメージを与える二酸化窒素や硝酸を生み出す。動物はおろか植物も生きられない。直撃側は死の半球と化すのだ。
とどめはミューオンだ。大気中の分子に当たった宇宙線は、細胞やDNAを破壊する素粒子を生み出す。中でも有害なミューオンは水深1,500mまで透過し、800mの岩盤をも貫くから海中や地下の生命をも根絶する。たとえ生き延びられたとしても、ガンや染色体異常で悲惨な末路をたどるだけだ。
■まとめ
過去5億年間に、地球は5回の大量絶滅を経験した。そのうちオルドビス紀末の大量絶滅は、ガンマ線バーストが原因という説が強く、6,000光年以内の恒星から発射されたと考えられている。
もしイータに狙われても、地球が滅びるのは7,500年後だ。宇宙の広さを感じながら、太古の光で死ねるなんて、壮大な死にかたに感謝すべきかもしれない。
(関口 寿/ガリレオワークス)
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