2017年に創立20周年を迎えたキューブは、古田新太や生瀬勝久らバイプレーヤーとして活躍する俳優を筆頭に演劇界のスターや、いきものがかりら多彩なアーティスト、ケラリーノ・サンドロヴィッチといった脚本・演出家を輩出してきた。その一方で、脚本家や演出家も多く所属し、コンテンツ制作を手がけるなど、芸能プロダクションとして独自の立ち位置を築いている。そのキューブ代表取締役社長の北牧裕幸氏が、今後の課題について語った。
【写真】『パタリロ!』に扮した加藤諒
◆ブロックチェーンの出現で進化なき者は淘汰される?
――まずは創立20周年おめでとうございます。エンタメを取り巻く環境が激変したこの20年、新規参入ながらも順調に成長されてきたキーポイントはどこにあったとお考えですか。
【北牧】 僕はインターネット環境の進化が大きな追い風になったと考えています。そもそも弊社を立ち上げたのも、これからはエンタメビジネスもユーザーとダイレクトに繋がってコンテンツを届ける時代になると予測したからでした。97 年当時、アメリカではすでにビデオ・オンデマンドが始まっていて、日本でも早晩映像も音楽も同じ状況になるだろうと思いました。CD盤はなくなるかもしれないけど、音楽は決してなくなることはない。僕はそのソフトを作る一番の川上にいたいと考えたわけです。それでキューブを立ち上げました。その際、川下でコンテンツ制作の資金もユーザーから直接にいただくシステムがあれば、僕らのような新参者でも資金繰りに余裕を持ってものづくりができる。そのために弊社では設立当初から、cubit clubというネットのプレイガイドとしては先駆けの1つを立ち上げました。cubit club は一例ですが、初期に着目したネットの進化が実際の世の中の流れと合致したのは幸運だったと思っています。
――御社の創立20周年記念パーティのサブタイトルにも「進化ノススメ」と銘打たれています。今後も変化を恐れず進化していくという意思表明ですね。
【北牧】 ええ、僕はこれからの10年、20年は今まで以上に激しい変化が訪れると予感しています。もしかしたら、これまでの日本のエンタテインメントのシステムをひっくり返してしまうほどの。それがブロックチェーンの出現です。僕はITの専門家でもないですし、正しく理解しているかどうかもわからないのですが、あくまで僕の勘です。
――ブロックチェーンはまだ研究段階ですが、テクノロジーの進歩が極めて高速化しているだけに準備は必要かもしれません。
【北牧】 そうですね。ブロックチェーンがきちんと機能し始めれば、あらゆる権利に紐付いた対価を、ユーザーが第三者を通さずに権利者に直接ペイすることも可能になります。例えば今は広告収入によるビジネスモデルで成立している動画サービスも、再生されるたびにユーザーから権利者へ直接お金が還元されるようになる、いわゆるフェアトレードが成立します。そのように、あらゆるコンテンツ消費が可視化できるのがブロックチェーンなのかなと考えています。
――これまでのエンタメビジネスは、川上のものづくりから川下のユーザーまでの間の“川”に派生する権利で成り立ってきた面も大きいわけですが。
【北牧】 僕は川そのものはなくならないと思います。ただ、今までいろんなダムで堰止められていた長い川が、一気に川上から河口へ繋がってしまうのがブロックチェーンなのかなと考えています。では、そうなると芸能プロダクションの存在意義は何か? 僕らの仕事の根本は新しいアーティスト、感動する作品を世の中に提示することによって、流行を作ることだと思います。ユーザーの興味を引き、好奇心を刺激して、そこで体験なり所有なりしてもらったコンテンツによって満足を提供し、対価を支払ってもらうのが我々の仕事の根本だと思うんですね。
――つまりプロデュースやマネージメントの真価も問われるのが、ブロックチェーンの出現であると。
【北牧】 どんなに素晴らしい楽曲も、アップロードするだけでは流行になりません。我々には時代に即応したより良い作品を作ることができるプロデューサーやマネージャーがいるということ、また、それを宣伝し、流行に繋げていくノウハウのあるシステムを持った仲間とネットワークを持っていること、それらが、これからのプロダクションの「進化」のための生存条件になっていくでしょう。音楽の例に限らず、エンタメビジネスのあらゆる面において、ブロックチェーンは革命を起こすのではないかと、僕は予想しています。そうした環境に合わせていかに進化していくかが、これからの10年、20年のための課題です。
◆実力派俳優育成の礎は自社制作のコンテンツ
――俳優のマネージメントについてお聞かせください。御社には古田新太さん、生瀬勝久さんを筆頭に演劇界の大スター、そして映像界では主役を食う名脇役ぶりを発揮する多彩な俳優陣が揃っています。また近年、バイプレイヤーが脚光を浴びる風潮もあります。
【北牧】 我々は彼らをバイプレイヤーとは捉えていませんが(笑)、テレビ的にはそう見えるかもしれないですね。
――そうした舞台に軸足を置く俳優が、テレビへの進出で全国的に認知されていくケースがかつて以上に増えています。
【北牧】 それは我々のマネージメントというよりは、結果論ですね。弊社はプロダクションとしては新参ですから、テレビドラマに主役を送り込むのは、設立当初は難しかったわけです。一方で我々は当時から自社制作の舞台を数多く主催しており、所属俳優が主演するケースも多い。その舞台をテレビ業界の方々が観に来て、オファーをくださったという流れです。
――マネージメント、宣伝、そしてコンテンツ制作を自社で完結できる体制もまた、新人育成における大きな強みと言えるのでしょうか。
【北牧】 弊社は「感動創造直売企業」を標榜しています。これは自社内にアーティストからクリエイター、演出家がいて、さらに劇場もあり、チケッティングのシステムもある。多くのアーティストが弊社の事務所の真下にあるアトリエとスタジオでレッスンを続け、マネージャーが階段を降りていけば、その成長をすぐに確認できる。そのような環境も作っています。自社内で拡大再生産できるものづくりの中で、ユーザーに直に作品を提供できる。そのシステムではいろんな試行錯誤もできますし、それは新人にとってチャンスかもしれません。
◆訪日客のエンタメ消費が2020年に向けた緊急課題
――20周年記念事業としては、音楽劇「魔都夜曲」がこの夏、シアターコクーン他3ヶ所で上演されます。
【北牧】 本作は1930年代の上海を舞台にした音楽劇です。1980年代初頭に僕が初めて上海を訪れた時から温めていた企画で、僕が製作総指揮に当たっています。藤木直人以下、橋本さとし、壮一帆、村井國夫などキューブ俳優陣多数出演で、演出も弊社の河原雅彦が当たります。実は先日、主演の藤木直人が上海で取材を受けました。藤木はドラマ『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)の大ヒットで、中国圏にも非常にファンが多く、本作も上海、台湾、香港などのお客さんが観に来てくれることを期待しています。何より2020年に向けて政府がさらなる観光立国に突き進んでいますが、我々エンタメ界も訪日外国人をいかにおもてなしするかは、今後3 年間の課題だと思っています。
――エンタメのインバウンド消費をいかに促すか、ということですか。
【北牧】 そうですね。藤木直人もいきものがかりも、毎回コンサートには多くの外国人客が来てくれていますから、僕らが作っているものが受け入れられている確信はあります。しかし訪日客に対して受け皿になる劇場から、外国向けの券売システムまで、インフラはまだまだ乏しい状況です。でも悲観していてもしょうがない。行政もいろいろ手一杯のようですし、愚痴ってる暇はない。自分たちで変えていくしかないんですよ。
――劇場不足を嘆くのではなく、自社でCBGKシブゲキ!!をオープンさせたようにですね。
【北牧】 そう、あれも自力で状況を変えていこうという1つの楔だったと自負しています。また自力でやれば、発言権を持ってものづくりをしていけますしね。頼るとしたら、政府や機関とかではなくユーザーに対して満足のいく作品を提供し、そこからの支持を得て、それが次のステップに繋がるのがエンタメ企業としての正しい成長だと思っています。そういう意味においても、僕はブロックチェーンによる革命に期待したいです。
(文:児玉澄子/写真:西岡義弘)
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――まずは創立20周年おめでとうございます。エンタメを取り巻く環境が激変したこの20年、新規参入ながらも順調に成長されてきたキーポイントはどこにあったとお考えですか。
【北牧】 僕はインターネット環境の進化が大きな追い風になったと考えています。そもそも弊社を立ち上げたのも、これからはエンタメビジネスもユーザーとダイレクトに繋がってコンテンツを届ける時代になると予測したからでした。97 年当時、アメリカではすでにビデオ・オンデマンドが始まっていて、日本でも早晩映像も音楽も同じ状況になるだろうと思いました。CD盤はなくなるかもしれないけど、音楽は決してなくなることはない。僕はそのソフトを作る一番の川上にいたいと考えたわけです。それでキューブを立ち上げました。その際、川下でコンテンツ制作の資金もユーザーから直接にいただくシステムがあれば、僕らのような新参者でも資金繰りに余裕を持ってものづくりができる。そのために弊社では設立当初から、cubit clubというネットのプレイガイドとしては先駆けの1つを立ち上げました。cubit club は一例ですが、初期に着目したネットの進化が実際の世の中の流れと合致したのは幸運だったと思っています。
――御社の創立20周年記念パーティのサブタイトルにも「進化ノススメ」と銘打たれています。今後も変化を恐れず進化していくという意思表明ですね。
【北牧】 ええ、僕はこれからの10年、20年は今まで以上に激しい変化が訪れると予感しています。もしかしたら、これまでの日本のエンタテインメントのシステムをひっくり返してしまうほどの。それがブロックチェーンの出現です。僕はITの専門家でもないですし、正しく理解しているかどうかもわからないのですが、あくまで僕の勘です。
――ブロックチェーンはまだ研究段階ですが、テクノロジーの進歩が極めて高速化しているだけに準備は必要かもしれません。
【北牧】 そうですね。ブロックチェーンがきちんと機能し始めれば、あらゆる権利に紐付いた対価を、ユーザーが第三者を通さずに権利者に直接ペイすることも可能になります。例えば今は広告収入によるビジネスモデルで成立している動画サービスも、再生されるたびにユーザーから権利者へ直接お金が還元されるようになる、いわゆるフェアトレードが成立します。そのように、あらゆるコンテンツ消費が可視化できるのがブロックチェーンなのかなと考えています。
――これまでのエンタメビジネスは、川上のものづくりから川下のユーザーまでの間の“川”に派生する権利で成り立ってきた面も大きいわけですが。
【北牧】 僕は川そのものはなくならないと思います。ただ、今までいろんなダムで堰止められていた長い川が、一気に川上から河口へ繋がってしまうのがブロックチェーンなのかなと考えています。では、そうなると芸能プロダクションの存在意義は何か? 僕らの仕事の根本は新しいアーティスト、感動する作品を世の中に提示することによって、流行を作ることだと思います。ユーザーの興味を引き、好奇心を刺激して、そこで体験なり所有なりしてもらったコンテンツによって満足を提供し、対価を支払ってもらうのが我々の仕事の根本だと思うんですね。
――つまりプロデュースやマネージメントの真価も問われるのが、ブロックチェーンの出現であると。
【北牧】 どんなに素晴らしい楽曲も、アップロードするだけでは流行になりません。我々には時代に即応したより良い作品を作ることができるプロデューサーやマネージャーがいるということ、また、それを宣伝し、流行に繋げていくノウハウのあるシステムを持った仲間とネットワークを持っていること、それらが、これからのプロダクションの「進化」のための生存条件になっていくでしょう。音楽の例に限らず、エンタメビジネスのあらゆる面において、ブロックチェーンは革命を起こすのではないかと、僕は予想しています。そうした環境に合わせていかに進化していくかが、これからの10年、20年のための課題です。
◆実力派俳優育成の礎は自社制作のコンテンツ
――俳優のマネージメントについてお聞かせください。御社には古田新太さん、生瀬勝久さんを筆頭に演劇界の大スター、そして映像界では主役を食う名脇役ぶりを発揮する多彩な俳優陣が揃っています。また近年、バイプレイヤーが脚光を浴びる風潮もあります。
【北牧】 我々は彼らをバイプレイヤーとは捉えていませんが(笑)、テレビ的にはそう見えるかもしれないですね。
――そうした舞台に軸足を置く俳優が、テレビへの進出で全国的に認知されていくケースがかつて以上に増えています。
【北牧】 それは我々のマネージメントというよりは、結果論ですね。弊社はプロダクションとしては新参ですから、テレビドラマに主役を送り込むのは、設立当初は難しかったわけです。一方で我々は当時から自社制作の舞台を数多く主催しており、所属俳優が主演するケースも多い。その舞台をテレビ業界の方々が観に来て、オファーをくださったという流れです。
――マネージメント、宣伝、そしてコンテンツ制作を自社で完結できる体制もまた、新人育成における大きな強みと言えるのでしょうか。
【北牧】 弊社は「感動創造直売企業」を標榜しています。これは自社内にアーティストからクリエイター、演出家がいて、さらに劇場もあり、チケッティングのシステムもある。多くのアーティストが弊社の事務所の真下にあるアトリエとスタジオでレッスンを続け、マネージャーが階段を降りていけば、その成長をすぐに確認できる。そのような環境も作っています。自社内で拡大再生産できるものづくりの中で、ユーザーに直に作品を提供できる。そのシステムではいろんな試行錯誤もできますし、それは新人にとってチャンスかもしれません。
◆訪日客のエンタメ消費が2020年に向けた緊急課題
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――エンタメのインバウンド消費をいかに促すか、ということですか。
【北牧】 そうですね。藤木直人もいきものがかりも、毎回コンサートには多くの外国人客が来てくれていますから、僕らが作っているものが受け入れられている確信はあります。しかし訪日客に対して受け皿になる劇場から、外国向けの券売システムまで、インフラはまだまだ乏しい状況です。でも悲観していてもしょうがない。行政もいろいろ手一杯のようですし、愚痴ってる暇はない。自分たちで変えていくしかないんですよ。
――劇場不足を嘆くのではなく、自社でCBGKシブゲキ!!をオープンさせたようにですね。
【北牧】 そう、あれも自力で状況を変えていこうという1つの楔だったと自負しています。また自力でやれば、発言権を持ってものづくりをしていけますしね。頼るとしたら、政府や機関とかではなくユーザーに対して満足のいく作品を提供し、そこからの支持を得て、それが次のステップに繋がるのがエンタメ企業としての正しい成長だと思っています。そういう意味においても、僕はブロックチェーンによる革命に期待したいです。
(文:児玉澄子/写真:西岡義弘)
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