リンジー・ローハンが出演した超低予算サスペンス映画『キャニオンズ』(”The Cayons”)製作の舞台裏を描いたNYTimes Magazine特集記事。
「リンジー・ローハンを自分の映画に起用するとこんなことが起こる」(Here Is What Happens When You Cast Lindsay Lohan in Your Movie)というこの記事についての話の続きを書く(前編はこちら)。
この作品で監督を務めることになったポール・シュレイダー、それにプロデューサーを買って出たブラクストン・ポープらは、なんとかローハンを口説き落とし、映画への出演を承知させた。
だがそのあともハプニングの連続だった。
ローハンは昔風の言い方をすれば「プッツン女優」。
最初のころは打ち合わせやリハーサルをすっぽかすのもあたりまえ、撮影が始まってからも、たとえば昼食休みに外出を許すと、しばらく現場に戻ってこない、といったこともあったとか。
実際、シュレイダーはローハンに一度「クビ」を言い渡している。
この時は焦ったローハンのほうがシュレイダーの泊まるホテルまで駆けつけて、部屋の前で何時間も懇願し続けた。
シュレイダーはドアを開けようとせず、代わりに「家に帰れ」と携帯電話のショートメッセージを送る……といったこともあったという。
この記事にはそんなエピソードが満載で、ほかにも「奇跡かと思えるほど順調に撮影が進んで、ようやく終わりが見えてきた」という段階で、(ローハンの遊び仲間の)レディー・ガガがハリウッドのホテルに滞在することになり、その日から「ローハンが姿を消してしまった」「朝5時半までガガと遊んでいたローハンをようやくつかまえて現場に来させたけれど、具合がわるくて医者を呼ぶ始末だった」などといった話もある。
だが、そんな中であえて「話の山場」をあげるとすると、それは撮影現場で起こった2つの出来事、ということになるかもしれない。
その1つは、ディーン演じる「クリスチャン」という男とローハン演じる「タラ」という女がいさかいとなり、怒ったクリスチャンがタラを床に突き倒す、という場面の撮影の時のこと。
リハーサルでディーンが本番よりもゆっくりと、力も控えめにしてローハンを突き倒してみせたが、なかなかシュレイダーのイメージしたとおりの演技にならない。
しびれを切らしたシュレイダーは「こうやるんだ」と自分で演技指導してみせたが、それでもディーンがほんとうにわかったかどうかにいまひとつ確信が持てない。
そこでシュレーダーはローハンを引き寄せると、彼女を本気で床に突き倒してみせた。
ローハンは悲鳴をあげ、その場にいた撮影スタッフは息をのんだ。
ところが、起き上がったローハンは笑みを浮かべながら、「とてもよかった。
もういちどやってみる?」(“That was great! Want to do it again?”)と言ったという。
翌日に行われたこのシーンの本番撮影では、わずか3テイクでシュレイダーの納得がいく場面が撮れた。
撮影後にタバコを吸いに出たローハン——この記事のなかに出てくるローハンは、始終タバコを吸っている、との印象——に向かって、誰かが「迫真の演技だったわ」というような褒め言葉を口にした。
それを聞いたローハンは、「(実の)父親からああいう仕打ちをたくさん受けたことがあるから」と答えた……。
もうひとつは、物語の展開上でもっとも重要なローハンとディーン、それに別の男女(合わせて4人)での「絡み」のシーンを撮るという日のこと。
全裸になる必要があったローハンはなかなか心の準備が整わず、控え室代わりのウォークインクロゼットに引きこもったまま、いくら待っても出てこない(実は、相手が本物のポルノ映画俳優ということで、かなり不安を感じていたらしい)。
シュレイダーが、ドア越しに何度か声をかけ、時には「契約のときから、このシーンがあることはわかっていただろう」などと怒ってみてもダメで、なんとかなだめすかして撮影場所の寝室まで出てこさせても、ベッドの上にすわったままなかなかローブを脱ごうとしない。
だが、どんどんと時間が過ぎてゆくなかで「万策尽きたか」と思われたまさにその瞬間、シュレイダーの頭の中にあるアイデアがひらめいた。
「まだひとつ試していない手があった」ことに気付いた彼は、着ていた服をすっかり脱ぐと、ローハンの前に歩み出て、こう言ったという。
「リン(ローハンのこと)、キミにリラックスしてほしいと思って、こうしてみた。
さあ、いっしょに裸になろう」(”Lins, I want you to be comfortable. C’mon, let’s do this.”)。
ローハンの叫び声を聞いて、階下の別室で待っていたプロデューサーのポープは「何事か」と階段を駆け上がった(出演者に配慮して、現場には撮影に必要な最低限の人しか入れなくなっていた)。
現場に続く廊下の角を曲がると、今年66歳になるシュレイダーの一糸まとわぬ姿が視界に飛び込んできた。
「うわっ」とたじろいだポープがそれでも状況を察してゆっくりと後ずさりにその場を離れようとすると、次の瞬間おかしな事が起こった。
ローハンがローブを脱いだのだった。
シュレイダーはここぞとばかりカメラを回した。
途中で「カット」の声がかかることは一度もなく、14分間の場面を一回で撮り終えた。
そんな数々の紆余曲折を経て、一同はなんとか作品を完成させた。
ただし、彼らのこの物語がハッピーエンドになるかどうかはまだわからない。
「サンダンスに出品できれば、元手の10倍くらい(の金額)は簡単に回収できる」と期待して応募したサンダンス・フィルムフェスティバル(毎年1月にあるインディーズ映画映画祭)には結局落選。
配給権の買い手がつくかどうかもまだ判らないという。
それでも、この話にわずかながらも救いがあると感じられるのは、ローハンがいまだにいろいろと問題を抱えながらも、女優の仕事が大好きである自分に気づき始めている、ということだ。
撮影開始前には「これが終わったら、しばらくアフリカにでも行ってこようかしら」などと言っていた彼女が、もう少しでお終いという頃には「当分休みはいらない。
自分は仕事をし続けているのが一番いいとわかった」などと口にするようになっていた。
また、「いつかは監督として自分の作品もつくってみたい」というローハンに、彼女の演技する姿を見続けてきた筆者が「まだ天賦の才能が残っているし、それを無駄にしないほうがいい」というと、ローハンは目に涙を浮かべながら、「わかってる。
そうしてみる。
本気でそうしてみる」(“I know. I’m trying. I’m really trying.”)と答え、さらにそのあとで「泣くわけにはいかない。
いまはメイクをしてるんだから」(“I can’t cry. I’ve got makeup on.”)と頭を振りながらそう言った、という場面がある。
この話のお終いの部分には、さんざん手こずらされたローハンを起用したことについて「後悔していないか」と尋ねられたシュレイダーが、「ノー。
映画のなかの彼女はすばらしい」という一節がある。
これに続けてシュレイダーは、実は映画完成後もローハンと連絡を取り合い、次の企画についての相談していたと打ち明ける。
その企画というのが、ジョン・カサベテス監督の名作『グロリア』をローハン主演でリメイクしよう、というもの(ただしこの企画、できあがった『キャニオンズ』を見せられてビックリしてしまったローハンの母親ーー絵に描いたような「ステージママ」らしいーーの反対などもあり、途中で立ち消えになってしまった、というような書かれ方をしている)。
ここまで読んできた私は、「もし実現したあかつきにはぜひ観てみたい」と思った次第である。
企画段階から最後まで、ローハンと、共演者の人気ポルノ男優ジェームス・ディーンの間にはずっと「緊張状態があった」とNYTの記事には書かれているが、TMZで11日に公開された下記の録音からも、そのことが感じ取れる。
ローハン、昨年11月半ばにはジミー・ファロンの番組にもゲスト出演して、お茶目なところを見せていた。
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「リンジー・ローハンを自分の映画に起用するとこんなことが起こる」(Here Is What Happens When You Cast Lindsay Lohan in Your Movie)というこの記事についての話の続きを書く(前編はこちら)。
この作品で監督を務めることになったポール・シュレイダー、それにプロデューサーを買って出たブラクストン・ポープらは、なんとかローハンを口説き落とし、映画への出演を承知させた。
だがそのあともハプニングの連続だった。
ローハンは昔風の言い方をすれば「プッツン女優」。
最初のころは打ち合わせやリハーサルをすっぽかすのもあたりまえ、撮影が始まってからも、たとえば昼食休みに外出を許すと、しばらく現場に戻ってこない、といったこともあったとか。
実際、シュレイダーはローハンに一度「クビ」を言い渡している。
この時は焦ったローハンのほうがシュレイダーの泊まるホテルまで駆けつけて、部屋の前で何時間も懇願し続けた。
シュレイダーはドアを開けようとせず、代わりに「家に帰れ」と携帯電話のショートメッセージを送る……といったこともあったという。
この記事にはそんなエピソードが満載で、ほかにも「奇跡かと思えるほど順調に撮影が進んで、ようやく終わりが見えてきた」という段階で、(ローハンの遊び仲間の)レディー・ガガがハリウッドのホテルに滞在することになり、その日から「ローハンが姿を消してしまった」「朝5時半までガガと遊んでいたローハンをようやくつかまえて現場に来させたけれど、具合がわるくて医者を呼ぶ始末だった」などといった話もある。
だが、そんな中であえて「話の山場」をあげるとすると、それは撮影現場で起こった2つの出来事、ということになるかもしれない。
その1つは、ディーン演じる「クリスチャン」という男とローハン演じる「タラ」という女がいさかいとなり、怒ったクリスチャンがタラを床に突き倒す、という場面の撮影の時のこと。
リハーサルでディーンが本番よりもゆっくりと、力も控えめにしてローハンを突き倒してみせたが、なかなかシュレイダーのイメージしたとおりの演技にならない。
しびれを切らしたシュレイダーは「こうやるんだ」と自分で演技指導してみせたが、それでもディーンがほんとうにわかったかどうかにいまひとつ確信が持てない。
そこでシュレーダーはローハンを引き寄せると、彼女を本気で床に突き倒してみせた。
ローハンは悲鳴をあげ、その場にいた撮影スタッフは息をのんだ。
ところが、起き上がったローハンは笑みを浮かべながら、「とてもよかった。
もういちどやってみる?」(“That was great! Want to do it again?”)と言ったという。
翌日に行われたこのシーンの本番撮影では、わずか3テイクでシュレイダーの納得がいく場面が撮れた。
撮影後にタバコを吸いに出たローハン——この記事のなかに出てくるローハンは、始終タバコを吸っている、との印象——に向かって、誰かが「迫真の演技だったわ」というような褒め言葉を口にした。
それを聞いたローハンは、「(実の)父親からああいう仕打ちをたくさん受けたことがあるから」と答えた……。
もうひとつは、物語の展開上でもっとも重要なローハンとディーン、それに別の男女(合わせて4人)での「絡み」のシーンを撮るという日のこと。
全裸になる必要があったローハンはなかなか心の準備が整わず、控え室代わりのウォークインクロゼットに引きこもったまま、いくら待っても出てこない(実は、相手が本物のポルノ映画俳優ということで、かなり不安を感じていたらしい)。
シュレイダーが、ドア越しに何度か声をかけ、時には「契約のときから、このシーンがあることはわかっていただろう」などと怒ってみてもダメで、なんとかなだめすかして撮影場所の寝室まで出てこさせても、ベッドの上にすわったままなかなかローブを脱ごうとしない。
だが、どんどんと時間が過ぎてゆくなかで「万策尽きたか」と思われたまさにその瞬間、シュレイダーの頭の中にあるアイデアがひらめいた。
「まだひとつ試していない手があった」ことに気付いた彼は、着ていた服をすっかり脱ぐと、ローハンの前に歩み出て、こう言ったという。
「リン(ローハンのこと)、キミにリラックスしてほしいと思って、こうしてみた。
さあ、いっしょに裸になろう」(”Lins, I want you to be comfortable. C’mon, let’s do this.”)。
ローハンの叫び声を聞いて、階下の別室で待っていたプロデューサーのポープは「何事か」と階段を駆け上がった(出演者に配慮して、現場には撮影に必要な最低限の人しか入れなくなっていた)。
現場に続く廊下の角を曲がると、今年66歳になるシュレイダーの一糸まとわぬ姿が視界に飛び込んできた。
「うわっ」とたじろいだポープがそれでも状況を察してゆっくりと後ずさりにその場を離れようとすると、次の瞬間おかしな事が起こった。
ローハンがローブを脱いだのだった。
シュレイダーはここぞとばかりカメラを回した。
途中で「カット」の声がかかることは一度もなく、14分間の場面を一回で撮り終えた。
そんな数々の紆余曲折を経て、一同はなんとか作品を完成させた。
ただし、彼らのこの物語がハッピーエンドになるかどうかはまだわからない。
「サンダンスに出品できれば、元手の10倍くらい(の金額)は簡単に回収できる」と期待して応募したサンダンス・フィルムフェスティバル(毎年1月にあるインディーズ映画映画祭)には結局落選。
配給権の買い手がつくかどうかもまだ判らないという。
それでも、この話にわずかながらも救いがあると感じられるのは、ローハンがいまだにいろいろと問題を抱えながらも、女優の仕事が大好きである自分に気づき始めている、ということだ。
撮影開始前には「これが終わったら、しばらくアフリカにでも行ってこようかしら」などと言っていた彼女が、もう少しでお終いという頃には「当分休みはいらない。
自分は仕事をし続けているのが一番いいとわかった」などと口にするようになっていた。
また、「いつかは監督として自分の作品もつくってみたい」というローハンに、彼女の演技する姿を見続けてきた筆者が「まだ天賦の才能が残っているし、それを無駄にしないほうがいい」というと、ローハンは目に涙を浮かべながら、「わかってる。
そうしてみる。
本気でそうしてみる」(“I know. I’m trying. I’m really trying.”)と答え、さらにそのあとで「泣くわけにはいかない。
いまはメイクをしてるんだから」(“I can’t cry. I’ve got makeup on.”)と頭を振りながらそう言った、という場面がある。
この話のお終いの部分には、さんざん手こずらされたローハンを起用したことについて「後悔していないか」と尋ねられたシュレイダーが、「ノー。
映画のなかの彼女はすばらしい」という一節がある。
これに続けてシュレイダーは、実は映画完成後もローハンと連絡を取り合い、次の企画についての相談していたと打ち明ける。
その企画というのが、ジョン・カサベテス監督の名作『グロリア』をローハン主演でリメイクしよう、というもの(ただしこの企画、できあがった『キャニオンズ』を見せられてビックリしてしまったローハンの母親ーー絵に描いたような「ステージママ」らしいーーの反対などもあり、途中で立ち消えになってしまった、というような書かれ方をしている)。
ここまで読んできた私は、「もし実現したあかつきにはぜひ観てみたい」と思った次第である。
企画段階から最後まで、ローハンと、共演者の人気ポルノ男優ジェームス・ディーンの間にはずっと「緊張状態があった」とNYTの記事には書かれているが、TMZで11日に公開された下記の録音からも、そのことが感じ取れる。
ローハン、昨年11月半ばにはジミー・ファロンの番組にもゲスト出演して、お茶目なところを見せていた。
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