芥川賞を受賞した西村賢太の私小説を、森山未來、高良健吾、前田敦子という旬の若手俳優で映画化して話題を呼んだのが『苦役列車』だ。
社会の底辺で鬱屈とした日々を送る”ダメ男”の青春を、型破りかつ新鮮な演出で描いており、観終わったあとに主人公のクズっぷりがどことなく愛おしく思えてくる不思議な作品に仕上がっている。
●芥川賞を受賞した私小説をベースにした物語●時代はバブル景気が始まったばかりの昭和後期。
北町貫多は中卒後、定職に就かず日雇い労働で生計を立てていた。
しかし稼いだ金はたちまち酒や風俗に消え、家賃を払う金さえ手元に残らないありさま。
大家からは、滞納している家賃を直ちに払うか、さもなければ部屋を立ち退くようにと勧告されている。
そんなある日、貫多は仕事場の港湾に向かうバスの中で日下部正二と出会い、話を交わすようになる。
正二は上京したばかりの専門学校生で、貫多とは正反対のマジメな性格。
境遇は異なるものの、同世代ということもあって次第にふたりは打ち解けていく。
そして、実父が性犯罪を犯して捕まって以来、他人とあまり関わりを持たずにきた貫多にとって、正二はほとんど唯一の”友だち”と言える存在になった。
有り余る性欲を風俗で解消していた貫多にとって、友だちより遠い存在が”カノジョ”だった。
”ヤル”のを目当てに好きでもない女性とつきあったことはあったが、まともな恋愛の経験はなし。
そんな彼が一目惚れした相手が、行きつけの古本屋でバイトする女学生、桜井康子だった。
正二の仲介で康子と話すきっかけを持った貫多は、彼女に「友だちになってほしい」とストレートに頼み込む。
それに対して、意外にもあっさりと康子は了承するのだったが…。
●どうしようもなく不器用な青年の青春模様を描いた佳品●風俗に入り浸り、ことあるごとに「オレは中卒だから」と卑屈になり、酒に酔ってはくだを巻くという、およそ魅力的とは言いがたい性格の青年を主人公に据えた本作。
現実にこんな人間が身近にいたら、どん引きすること間違いなし。
しかし、物語が進むにつれて、そんな”ダメ男”がどことなく愛おしく感じられるようになってくるから不思議だ。
その理由として考えられるのが、丁寧なキャラクター造形ときめ細かな心情描写だろう。
たとえば、意中の女性に声をかけて友だちになったはいいものの、どういうつきあいをしたらいいのか分からず「友だちってどうやってなるんだ? やっちゃいけないのか?」と正二に問うシーンでは、風俗以外の女性を知らずまともな恋愛をしたことがない貫多の不器用さが痛いほど伝わってくる。
また、友情や恋愛がうまくいきそうになったときに自らそれをぶちこわすような態度をとったり、正二と気まずい仲になったとき「おまえ、友だちだったよな。
ありがとう、本当にありがとう」と声をかけたりするシーンでは、周りの人間とうまくつきあいたいのに、それができないもどかしさが透けて見える。
そうかと思えば、せっかく親しくなりかけていた康子の手を衝動的になめたり、白ブリーフ一枚になって寒空の海の中に飛び込んでいったり、引っ越しするときに「大家への置き土産」と言って突然パンツを脱いで畳の上で用を足そうとするなど、エキセントリックなシーンも数多くある。
それらすべてが絶妙に組み合わさってダメ人間である主人公のことを放っておけない気持ちにさせるのだ。
貫多を取り巻く人々もキャラが立っており、友人の正二はもちろん、その彼女のサブカル系勘違い女、貫多がのぞき部屋で偶然再会する元カノ、「夢なんか持つな」と言いつつ歌手になるのを諦められない貫多の先輩など、一癖も二癖もある人物が次々と登場する。
●意外なハマリ役も! 森山未來や前田敦子ら若手が好演!●主人公の貫多を演じているのは人気俳優の森山未來。
見事なハマリっぷりが印象的だった「モテキ」とは180度異なるキャラクターながら、完全に役になりきっており、粗雑な態度や卑屈な表情、ふとした瞬間に見せる純粋さなどをリアルかつ圧倒的な存在感で演じている。
まさに快演という言葉がふさわしい。
その友人、正二に扮するのは、若手実力派の高良健吾。
貫多に対する感情の変化を説得力ある演技で表現している。
貫多が一目惚れする古本屋の女の子を演じるのは、元AKB48の前田敦子。
かわいいけれどちょっと垢抜けないヒロイン役が意外にもハマリ役。
白いシュミーズ姿で濡れ鼠になるシーンなどもあるので、ファンの方はお見逃しなく。
監督は、『天然コケッコー』や『マイ・バック・ページ』の山下敦弘。
今旬な若手の魅力を引き出し、原作にはないエピソードを織り交ぜながら独特な世界観を構築していく手腕は見事の一言。
細部にまで配慮が行き届いた演出は、観るたびに新しい発見があるはず。
ぜひBlu-rayやDVDで繰り返し楽しんでみてほしい。
【拡大画像を含む完全版はこちら】
森山未來×前田敦子の映画『苦役列車』、DVD&Blu-rayの発売が決定!
主演・前田敦子×監督・山下敦弘、第2弾の冬編がいよいよ放送スタート!
前田敦子、山下敦弘監督作で主演が決定! 主題歌は星野源の新曲「季節」
前田敦子、森山未來に「好きです!」と告白 - 『苦役列車』初日
社会の底辺で鬱屈とした日々を送る”ダメ男”の青春を、型破りかつ新鮮な演出で描いており、観終わったあとに主人公のクズっぷりがどことなく愛おしく思えてくる不思議な作品に仕上がっている。
●芥川賞を受賞した私小説をベースにした物語●時代はバブル景気が始まったばかりの昭和後期。
北町貫多は中卒後、定職に就かず日雇い労働で生計を立てていた。
しかし稼いだ金はたちまち酒や風俗に消え、家賃を払う金さえ手元に残らないありさま。
大家からは、滞納している家賃を直ちに払うか、さもなければ部屋を立ち退くようにと勧告されている。
そんなある日、貫多は仕事場の港湾に向かうバスの中で日下部正二と出会い、話を交わすようになる。
正二は上京したばかりの専門学校生で、貫多とは正反対のマジメな性格。
境遇は異なるものの、同世代ということもあって次第にふたりは打ち解けていく。
そして、実父が性犯罪を犯して捕まって以来、他人とあまり関わりを持たずにきた貫多にとって、正二はほとんど唯一の”友だち”と言える存在になった。
有り余る性欲を風俗で解消していた貫多にとって、友だちより遠い存在が”カノジョ”だった。
”ヤル”のを目当てに好きでもない女性とつきあったことはあったが、まともな恋愛の経験はなし。
そんな彼が一目惚れした相手が、行きつけの古本屋でバイトする女学生、桜井康子だった。
正二の仲介で康子と話すきっかけを持った貫多は、彼女に「友だちになってほしい」とストレートに頼み込む。
それに対して、意外にもあっさりと康子は了承するのだったが…。
●どうしようもなく不器用な青年の青春模様を描いた佳品●風俗に入り浸り、ことあるごとに「オレは中卒だから」と卑屈になり、酒に酔ってはくだを巻くという、およそ魅力的とは言いがたい性格の青年を主人公に据えた本作。
現実にこんな人間が身近にいたら、どん引きすること間違いなし。
しかし、物語が進むにつれて、そんな”ダメ男”がどことなく愛おしく感じられるようになってくるから不思議だ。
その理由として考えられるのが、丁寧なキャラクター造形ときめ細かな心情描写だろう。
たとえば、意中の女性に声をかけて友だちになったはいいものの、どういうつきあいをしたらいいのか分からず「友だちってどうやってなるんだ? やっちゃいけないのか?」と正二に問うシーンでは、風俗以外の女性を知らずまともな恋愛をしたことがない貫多の不器用さが痛いほど伝わってくる。
また、友情や恋愛がうまくいきそうになったときに自らそれをぶちこわすような態度をとったり、正二と気まずい仲になったとき「おまえ、友だちだったよな。
ありがとう、本当にありがとう」と声をかけたりするシーンでは、周りの人間とうまくつきあいたいのに、それができないもどかしさが透けて見える。
そうかと思えば、せっかく親しくなりかけていた康子の手を衝動的になめたり、白ブリーフ一枚になって寒空の海の中に飛び込んでいったり、引っ越しするときに「大家への置き土産」と言って突然パンツを脱いで畳の上で用を足そうとするなど、エキセントリックなシーンも数多くある。
それらすべてが絶妙に組み合わさってダメ人間である主人公のことを放っておけない気持ちにさせるのだ。
貫多を取り巻く人々もキャラが立っており、友人の正二はもちろん、その彼女のサブカル系勘違い女、貫多がのぞき部屋で偶然再会する元カノ、「夢なんか持つな」と言いつつ歌手になるのを諦められない貫多の先輩など、一癖も二癖もある人物が次々と登場する。
●意外なハマリ役も! 森山未來や前田敦子ら若手が好演!●主人公の貫多を演じているのは人気俳優の森山未來。
見事なハマリっぷりが印象的だった「モテキ」とは180度異なるキャラクターながら、完全に役になりきっており、粗雑な態度や卑屈な表情、ふとした瞬間に見せる純粋さなどをリアルかつ圧倒的な存在感で演じている。
まさに快演という言葉がふさわしい。
その友人、正二に扮するのは、若手実力派の高良健吾。
貫多に対する感情の変化を説得力ある演技で表現している。
貫多が一目惚れする古本屋の女の子を演じるのは、元AKB48の前田敦子。
かわいいけれどちょっと垢抜けないヒロイン役が意外にもハマリ役。
白いシュミーズ姿で濡れ鼠になるシーンなどもあるので、ファンの方はお見逃しなく。
監督は、『天然コケッコー』や『マイ・バック・ページ』の山下敦弘。
今旬な若手の魅力を引き出し、原作にはないエピソードを織り交ぜながら独特な世界観を構築していく手腕は見事の一言。
細部にまで配慮が行き届いた演出は、観るたびに新しい発見があるはず。
ぜひBlu-rayやDVDで繰り返し楽しんでみてほしい。
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