「おはようございます」は日常で使う最もポピュラーなあいさつですが、昼夜を問わず「おはようございます」とあいさつをする業界もあります。なにか由来があるのかという、小さな疑問に答えていただこうと、今回は東京経済大学を訪ねました。マーケティングがご専門で業界用語に詳しい小木紀親教授に「あいさつの由来」についてお話をうかがいました。
■ルーツは歌舞伎界だった!?
――「おはようございます」のあいさつは、いつから使われているのでしょうか?
「おはようございますというあいさつの起源については諸説ありますが、歌舞伎界で使われているあいさつが波及したという説が最も有力です。歌舞伎界では一日を通して公演が行われ、トリを務める座長は夕方近くに楽屋入りします。その際、下役の者が、『お早いおつきでございます』を省略して『お早うございます』と出迎えたのが始まりだと言われています」
――現在のおはようございますとは違う意味だったのですか?
「そこで、座長は『早くから御苦労さまですね』という、ねぎらいの意味を込めて『お早うございます』と返します。同じあいさつでも、立場によって言葉の意味が違うんですね。一般に使う『おはようございます』は時候のあいさつですから、それとも違いますね」
――それでは、放送業界のあいさつも同様なんでしょうか?
「放送業界も昼夜を問わず、楽屋入りする業界ですし、同じ芸能業界ですから意味は同じでしょうね。ルーツも歌舞伎界から来たというのが有力です。
また、水商売やホテル業界も、時間を問わずスタッフが入れ換わるため、その日初めて会った時のあいさつとして定着したという説と、歌舞伎はかつて大衆娯楽の花形ですから、それをまねしたという二説があります」
――そういえば、歌舞伎界から波及した言葉は結構ありますね。
「例えば、『大見得を切る』などはいい例で、歌舞伎の『見得を切る』から来ています。現在では、自分を誇示するような態度・言動という意味合いで一般的に使われますね。
ほかに、金融業界で使われる『頭取』も、歌舞伎の伴奏を指揮する役目の『頭取』から来たと言われています」
――歌舞伎界の用語は注目されていたわけですね。
「一般庶民にとっては雲の上のスターでしたから、カッコいいとまねた例は多いと思います。いずれにしても一般庶民が受け入れた言葉が現在にも継続されているわけですね。
また、業界のあいさつ用語という意味では、百貨店業界などで今でも使われる食事休憩のあいさつに『キザさせていただきます』という言葉があります。漢字で書くと『喜座』となって、文字通り喜んで座るという意味ですが、こちらも風習の中で受け継がれたあいさつで、変化して『喜左衛門』などと呼ぶところもあります」
■ビジネス文書でよく使う、アノ言葉の意味とは?
――風習といえば、ビジネス文章にも昔ながらのあいさつが今でも使われていますね。
「拝啓からはじまり敬具で終わるというしきたりは、手紙文の中に今でも根付いています。長々としたあいさつを省略するという意味では、歌舞伎界の『おはようございます』と同じかもしれませんね」
――ちなみに、拝啓とはどういう意味なのですか?
「拝啓の『拝』はおじぎをする、『啓』は申し述べるというあいさつを表現した言葉です。拝啓と書くだけで、すべてを理解できるよう工夫された先人の知恵ですね。現代でいえば、読んだだけで気持ちが伝わる顔文字のようなものです」
――そうすると、敬具も同様なわけですね。
「『敬』は相手をうやまう気持ちを表し、『具』で申し述べましたと、文面を謹んで締めるわけです。『前略』で始まる場合は『かしこ』で締めますが、これも『かしこまって申し述べました』と、自分をへりくだって、相手を尊重した言葉です」
いずれにしても、あいさつは相手をうやまい、気遣うという意味では、時代を問わず共通のコミュニケーションツールのようです。あいさつが大事と言われるのは、こういうところにあるんですね!
小木紀親(東京経済大学教授)
東京経済大学および慶應義塾大学などで、マーケティング論を担当
著書に『マーケティング・ストラテジー』(中央経済社)、『マーケティングEYE[第3版]』(中部経済新聞社)ほか多数。
(OFFICE-SANGA 安藤のり子)
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――「おはようございます」のあいさつは、いつから使われているのでしょうか?
「おはようございますというあいさつの起源については諸説ありますが、歌舞伎界で使われているあいさつが波及したという説が最も有力です。歌舞伎界では一日を通して公演が行われ、トリを務める座長は夕方近くに楽屋入りします。その際、下役の者が、『お早いおつきでございます』を省略して『お早うございます』と出迎えたのが始まりだと言われています」
――現在のおはようございますとは違う意味だったのですか?
「そこで、座長は『早くから御苦労さまですね』という、ねぎらいの意味を込めて『お早うございます』と返します。同じあいさつでも、立場によって言葉の意味が違うんですね。一般に使う『おはようございます』は時候のあいさつですから、それとも違いますね」
――それでは、放送業界のあいさつも同様なんでしょうか?
「放送業界も昼夜を問わず、楽屋入りする業界ですし、同じ芸能業界ですから意味は同じでしょうね。ルーツも歌舞伎界から来たというのが有力です。
また、水商売やホテル業界も、時間を問わずスタッフが入れ換わるため、その日初めて会った時のあいさつとして定着したという説と、歌舞伎はかつて大衆娯楽の花形ですから、それをまねしたという二説があります」
――そういえば、歌舞伎界から波及した言葉は結構ありますね。
「例えば、『大見得を切る』などはいい例で、歌舞伎の『見得を切る』から来ています。現在では、自分を誇示するような態度・言動という意味合いで一般的に使われますね。
ほかに、金融業界で使われる『頭取』も、歌舞伎の伴奏を指揮する役目の『頭取』から来たと言われています」
――歌舞伎界の用語は注目されていたわけですね。
「一般庶民にとっては雲の上のスターでしたから、カッコいいとまねた例は多いと思います。いずれにしても一般庶民が受け入れた言葉が現在にも継続されているわけですね。
また、業界のあいさつ用語という意味では、百貨店業界などで今でも使われる食事休憩のあいさつに『キザさせていただきます』という言葉があります。漢字で書くと『喜座』となって、文字通り喜んで座るという意味ですが、こちらも風習の中で受け継がれたあいさつで、変化して『喜左衛門』などと呼ぶところもあります」
■ビジネス文書でよく使う、アノ言葉の意味とは?
――風習といえば、ビジネス文章にも昔ながらのあいさつが今でも使われていますね。
「拝啓からはじまり敬具で終わるというしきたりは、手紙文の中に今でも根付いています。長々としたあいさつを省略するという意味では、歌舞伎界の『おはようございます』と同じかもしれませんね」
――ちなみに、拝啓とはどういう意味なのですか?
「拝啓の『拝』はおじぎをする、『啓』は申し述べるというあいさつを表現した言葉です。拝啓と書くだけで、すべてを理解できるよう工夫された先人の知恵ですね。現代でいえば、読んだだけで気持ちが伝わる顔文字のようなものです」
――そうすると、敬具も同様なわけですね。
「『敬』は相手をうやまう気持ちを表し、『具』で申し述べましたと、文面を謹んで締めるわけです。『前略』で始まる場合は『かしこ』で締めますが、これも『かしこまって申し述べました』と、自分をへりくだって、相手を尊重した言葉です」
いずれにしても、あいさつは相手をうやまい、気遣うという意味では、時代を問わず共通のコミュニケーションツールのようです。あいさつが大事と言われるのは、こういうところにあるんですね!
小木紀親(東京経済大学教授)
東京経済大学および慶應義塾大学などで、マーケティング論を担当
著書に『マーケティング・ストラテジー』(中央経済社)、『マーケティングEYE[第3版]』(中部経済新聞社)ほか多数。
(OFFICE-SANGA 安藤のり子)
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