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間もなく公開!アンジェイ・ワイダ監督『菖蒲』劇中で描かれる画家エドワード・ホッパーへのオマージュに隠された孤独とは

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 10月20日(土)より岩波ホールほかにて公開される、2011年ベルリン国際映画祭でアルフレード・バウアー賞に輝いたアンジェイ・ワイダ監督の映画『菖蒲』。本作は、ワイダ監督が実際の事件を基に映画化した作品「カティンの森」とは打って変わってみずみずしい抒情に満ち、生きることの源泉に触れた文芸映画の傑作となった。
 
 本作の成り立ちまでに、ある特別な出来事が起こっている。それは、撮影半ばに起きた、主演のクリスティナ・ヤンダの夫であり撮影監督であったエドヴァルト・クウォシンスキの病死であった。その後脚本が大きく改変され、原作の物語と、それを撮影中のワイダ監督のクルー、そしてヤンダによるモノローグ、の3つの世界が交差し、織り成すように構成されている。ワイダ監督は、脚本を変更した際、劇中でクリスティナ・ヤンダが独白するシーンに20世紀アメリカを代表する画家エドワード・ホッパーの「朝の日ざし(morning sun)」、「朝日に立つ女(woman in the sun)」の構図を意図的に用いた。ワイダ監督は、夫を失ったヤンダの孤独が、常に都会の孤独を見つめてきた画家の絵に重なったと語る。

 「ロケから戻った私に、クリスティナは自ら書いた数ページの原稿のプリントアウトを渡してくれました。私は読みながら、胸を衝かれました。そこには、私の生涯の親友エドヴァルト・クウォシンスキの最期の日々が記されていたからです。“私だけに読ませてくれるつもりなのか?カメラに向かってこれを語ってみる気はないか?”彼女ははっきりと、“ほかの人たちにも話したい”と答えました。そのとき私は、ふと考えました――“彼女はこういうことを思いながら、毎日ロケからホテルに帰るのか、そして孤独のうちに、あの瞬間、を思い出しているのか“と。ただちに私の目の前に、孤独な女性がホテルの部屋ですごす様子を描いたホッパーの絵画が思い浮かびました」

 暗い部屋で膝を抱えてベッドに座る孤独な女性と、陽日にきらめく川辺で束の間の恋に胸躍らす女性、そんな対照的な2人を演じ分ける女優。彼女は、原作の物語を演じている最中に夫を失い、しかもその夫は本作の撮影監督でもあった。ヤンダの静謐なモノローグが、原作と映画を、撮影監督と女優を、虚構と現実を繋げて表現する。人間の普遍的な「生と死」について問いかける。映画『菖蒲』は、みずみずしい光を放つ大河を望むポーランドの小さな町が舞台。その町の医師と、妻のマルタ(クリスティナ・ヤンダ)は、長年連れ添ってきたものの、ワルシャワ蜂起の際、ふたりの息子を亡くしたことで互いに距離ができてしまっている。そんななか夫は、自身の診断で妻が重篤な病状であることを知るが、妻へは告白できずにいた。春が終わり、夏が訪れようとしていたある日、マルタは川岸のカフェで、美しい青年を見かける。彼との出会いで、マルタは失ってきたものを反芻し、心ざわめく……。

■『菖蒲』
2012年10月20日(土)より岩波ホールにてロードショー(全国順次公開)

2009年/ポーランド/87分/カラー/ポーランド語/シネマスコープ
【監督】アンジェイ・ワイダ
【原作】ヤロスワフ・イヴァシュキェヴィチ「菖蒲」
【出演】クリスティナ・ヤンダ、パヴェウ・シャイダ、ヤドヴィガ・ヤンコフスカ=チェシラク、ユリア・ピェトルハ、ヤン・エングレルト


関連リンク
映画『菖蒲』公式サイト>

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