「企業で活躍できる人」のイメージってどんな感じだろうか。
「地頭がよくて、コミュニケーション能力最強のグローバル人材」って感じ?
こういう漠然としたイメージを、企業も働く人も、厚生労働省なんかも掲げてるけど、「もっとちゃんとやろうぜ」と問いただしている本、『採用基準』をご紹介します。タイトルは「採用基準」だけど、「採用されちゃったものの、あんまりパッとしない人」の方にもおすすめかもしれないです。
たとえばあなたは、以下のようなこと、納得していただけるでしょうか。
・英語がしゃべれるかどうか以前に、考えたりしゃべる内容が「会社のためになる」ような質と量であるほうが、まず大事
・上司に対するホウレンソウ(報告・連絡・相談)の徹底とか言うけど、進言とか独自調査・判断とかもできないとただの雑用じゃないだろうか
考えてみれば当たり前だけど、就職は「お受験」じゃない。もし仕事を通して活躍したいなら当然、「パスして終わり」というわけにはいかない。
お金を払って勉強させてもらう学校ではなく、スキルやキャリアは自分で設計して求めていって積まなければならない。逆に会社が「成長する社員」にそれなりの給料や将来を渡さなければ、社員はさらなる成長計画実現のために転職・独立する。
「活躍したい人」向けに書かれたこの本は、マッキンゼーという会社で採用担当を10年以上やっていた人によるものだ。
マッキンゼーは、いわゆる一流企業と言われるコンサルティング会社。会社の社長とかがお客さんで、会社の経営上の難題とかを攻略したりするのが主な仕事だ。社員はみな主体性をもって意欲的に問題解決を行い、強度の高い頭脳労働を連続して仕上げ、年収1000万も当たり前の世界とも言われている。すごいなあ。
いやいや嫉妬してる場合じゃない。マッキンゼーはあくまでモデル、言ってみれば分かりやすくて極端な例だ。ちょっとでも心がければ誰だってそういう「活躍できるパワー」を訓練していけるはずだし、そういう能力を持つ人が乏しい職場においては、ますます貴重な存在になれる。
本を書いた伊賀さんはこの本の中で様々なエピソードを並べながら、元採用担当者として思うことをまとめている。
たとえばよくグーグルやマイクロソフトなんかのユニークな採用試験としても話題にもなる「ケース問題」。
「摂氏1兆度の火の玉を吐く怪獣が都庁を襲っています、2000万円で可能な限り被害を抑えるアイデアを出してください」とか、「とんち」みたいな出題も多い。
こういう問題に対して、わざわざ「傾向と対策」をして、良回答の暗記までする優等生がいるという。言うまでもなくこういう試験は「限られた時間でいかに高速で多様で常識にとらわれない、濃度とタフネスのある思考が展開できるか」、つまり「考えることが好きで、どれだけ目的にたいして有意義なコネコネするのに慣れているか」を見抜きたいのだ。
また、一流大学の中でも最近では、京大のような「日本人の学生が圧倒的に多い環境で学ぶ学生」の能力に残念さを感じることも多いという。
東京などでは外国人も多く、日常的に留学生などと関わって多様な常識を知る機会が多い。また、学生のうちから社会人と課外でプロジェクトを進めたり、起業したりする機会が多いので「社会に出たあとの学歴の役に立たなさ」、「場数を踏んでスキルを高めることの必要性」を早くから意識できるというのだ。
とまあ、「多国籍展開するような企業が必要としている人材」と「日本で育成されて社会に出る人間」の間に、いかにギャップがあるかがどんどん語られる。
「日本人は1つの答えを導くのは得意なお利口さんが多いけど、柔軟に考えたり積極的にアウトプットしていくのが苦手」系の論には飽き飽きしてる人も多いかもしれないが、それが「お説教」にとどまらずに、伊賀さん自身のキャリアやその時々で考えたことを「わりと反省的に」追体験できるところが、そのへんのビジネス書と違う。
伊賀さんも「途中で気付いた人」であり、自分でキャリアをデザインするようになるまでは、ただ選択肢を増やしたり有利のために学歴や職歴を身に付けていた。それが変わっていく過程がリアルに読める。
くどいようだけど、就職活動は受験じゃなくて、入って終わりじゃない。
いかに「単純な語学力」よりも問題解決能力や情報収集スキル、インタビュースキルなど有機的な能力の方が役に立つか。それらの力は、漠然と「キャリアアップ」と言われているような収入の増加だけでなく、働き方全体を自分のデザインする方向に近づけていくパワーでもあるだろう。
「仕事に希望を持つなんてバカバカしいぜ、どうなったっていいっすよ」という考えも当然あるし、そういう人にはおそらくこの本は必要ない。よくある就職セミナーや就職活動マニュアル、ブームに惑わされず、自分の能力をデザインして目的を叶えていきたい人には心強い内容。
マッキンゼーは素晴らしい会社だけど、この本『採用基準』は、マッキンゼーに関係ない人ほど活用しがいのある本だ。読んでやる気を出したい人、これから自分のキャリアについて考えたい人、そういうビジョンがなくて困っている人なんかにも参考になるんじゃないかなと思う。(香山哲)
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こういう漠然としたイメージを、企業も働く人も、厚生労働省なんかも掲げてるけど、「もっとちゃんとやろうぜ」と問いただしている本、『採用基準』をご紹介します。タイトルは「採用基準」だけど、「採用されちゃったものの、あんまりパッとしない人」の方にもおすすめかもしれないです。
たとえばあなたは、以下のようなこと、納得していただけるでしょうか。
・英語がしゃべれるかどうか以前に、考えたりしゃべる内容が「会社のためになる」ような質と量であるほうが、まず大事
・上司に対するホウレンソウ(報告・連絡・相談)の徹底とか言うけど、進言とか独自調査・判断とかもできないとただの雑用じゃないだろうか
考えてみれば当たり前だけど、就職は「お受験」じゃない。もし仕事を通して活躍したいなら当然、「パスして終わり」というわけにはいかない。
お金を払って勉強させてもらう学校ではなく、スキルやキャリアは自分で設計して求めていって積まなければならない。逆に会社が「成長する社員」にそれなりの給料や将来を渡さなければ、社員はさらなる成長計画実現のために転職・独立する。
「活躍したい人」向けに書かれたこの本は、マッキンゼーという会社で採用担当を10年以上やっていた人によるものだ。
マッキンゼーは、いわゆる一流企業と言われるコンサルティング会社。会社の社長とかがお客さんで、会社の経営上の難題とかを攻略したりするのが主な仕事だ。社員はみな主体性をもって意欲的に問題解決を行い、強度の高い頭脳労働を連続して仕上げ、年収1000万も当たり前の世界とも言われている。すごいなあ。
いやいや嫉妬してる場合じゃない。マッキンゼーはあくまでモデル、言ってみれば分かりやすくて極端な例だ。ちょっとでも心がければ誰だってそういう「活躍できるパワー」を訓練していけるはずだし、そういう能力を持つ人が乏しい職場においては、ますます貴重な存在になれる。
本を書いた伊賀さんはこの本の中で様々なエピソードを並べながら、元採用担当者として思うことをまとめている。
たとえばよくグーグルやマイクロソフトなんかのユニークな採用試験としても話題にもなる「ケース問題」。
「摂氏1兆度の火の玉を吐く怪獣が都庁を襲っています、2000万円で可能な限り被害を抑えるアイデアを出してください」とか、「とんち」みたいな出題も多い。
こういう問題に対して、わざわざ「傾向と対策」をして、良回答の暗記までする優等生がいるという。言うまでもなくこういう試験は「限られた時間でいかに高速で多様で常識にとらわれない、濃度とタフネスのある思考が展開できるか」、つまり「考えることが好きで、どれだけ目的にたいして有意義なコネコネするのに慣れているか」を見抜きたいのだ。
また、一流大学の中でも最近では、京大のような「日本人の学生が圧倒的に多い環境で学ぶ学生」の能力に残念さを感じることも多いという。
東京などでは外国人も多く、日常的に留学生などと関わって多様な常識を知る機会が多い。また、学生のうちから社会人と課外でプロジェクトを進めたり、起業したりする機会が多いので「社会に出たあとの学歴の役に立たなさ」、「場数を踏んでスキルを高めることの必要性」を早くから意識できるというのだ。
とまあ、「多国籍展開するような企業が必要としている人材」と「日本で育成されて社会に出る人間」の間に、いかにギャップがあるかがどんどん語られる。
「日本人は1つの答えを導くのは得意なお利口さんが多いけど、柔軟に考えたり積極的にアウトプットしていくのが苦手」系の論には飽き飽きしてる人も多いかもしれないが、それが「お説教」にとどまらずに、伊賀さん自身のキャリアやその時々で考えたことを「わりと反省的に」追体験できるところが、そのへんのビジネス書と違う。
伊賀さんも「途中で気付いた人」であり、自分でキャリアをデザインするようになるまでは、ただ選択肢を増やしたり有利のために学歴や職歴を身に付けていた。それが変わっていく過程がリアルに読める。
くどいようだけど、就職活動は受験じゃなくて、入って終わりじゃない。
いかに「単純な語学力」よりも問題解決能力や情報収集スキル、インタビュースキルなど有機的な能力の方が役に立つか。それらの力は、漠然と「キャリアアップ」と言われているような収入の増加だけでなく、働き方全体を自分のデザインする方向に近づけていくパワーでもあるだろう。
「仕事に希望を持つなんてバカバカしいぜ、どうなったっていいっすよ」という考えも当然あるし、そういう人にはおそらくこの本は必要ない。よくある就職セミナーや就職活動マニュアル、ブームに惑わされず、自分の能力をデザインして目的を叶えていきたい人には心強い内容。
マッキンゼーは素晴らしい会社だけど、この本『採用基準』は、マッキンゼーに関係ない人ほど活用しがいのある本だ。読んでやる気を出したい人、これから自分のキャリアについて考えたい人、そういうビジョンがなくて困っている人なんかにも参考になるんじゃないかなと思う。(香山哲)
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