作家の橘 玲(たちばな・あきら)さんが、<日本の問題を進化論の視点から考えてみる>という視点で書いた社会批評集『不愉快なことには理由がある』(集英社)を発表した。
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進化論とは、かの有名なダーウィンが『種の起源』で提唱した
<子孫を残すことに成功した遺伝子が次世代に引き継がれる>
という理論のこと。では進化論を使って日本の問題を解き明かすとどうなるのか? 本書の基本姿勢は、次の一点だ。
『世の中で起きている問題の多くは、すべてヒトという生物の進化において必然的に起こってしまうもので、回避することはできない』
えぇーそんなミもフタもないこと言っちゃうの!?
本書で取り上げられている中から例をあげてみると……
・政治家が権力にしがみつくのは、権力欲が脳にプレインストールされているから
・いじめはヒトの本能から生まれるものなので、原理的に根絶できない
政治やいじめといった現代日本が抱える大問題も、
進化論を用いると、このような結論に達するのだそうだ。
ではその内容を詳しく見ていこう。
なぜ政治家は権力にしがみつくのか?
折しも日本は衆議院議員総選挙のまっただなか。各政党の主張を見比べて、「投票したいと思う党がひとつもない……もっと国のために真剣になってくれる人はいないのか」と苛立つ人もいるだろう。しかし進化論の視点からみると、人は<政治の本質が権力闘争であるという基本的なことを見逃してい>ると言う。
<多くの人は、日本の政治がダメなのは政治家がだらしないからだと考えています。しかしこの問題は、ずっとやっかいです。私たちはみんな、権力への欲望を脳にプレインストールされて生まれてきます。外部から隔離された政治空間ではその本能が理性を失わせ、“サル性”が前面に出てしまうのです。(中略)私たちが「猿の惑星」に住んでいると思えば、日本の政治でなにが起きているのかをすっきり理解できるようになります――なんの慰めにもならないでしょうが。>
遺伝子は原則として「生き残ることを最優先」する。そのために権力を手に入れようとするのは、確かに自然な行いなのかもしれない。政治家のみなさんにはそんな欲望はさっさとアンインストールしてもらって、しっかり仕事してほしいところだが……。
いじめはヒトの本能が生み出すものなので、原理的に根絶できない
次に『学校はいじめを前提に成立している』という項を読んでみる。文科省はいじめの根絶を目指しているが、いじめをなくそうとすることは<子どもに人間でいることをやめろと言うのと同じ>である、と著者は言う。
ヒトは社会的な動物であるがゆえに、自然に集団を作り、仲間意識を高めていくようプログラミングされているのだそうだ。<集団が成立するためには、「仲間」と「敵」を区別する境界が必要です。この境界は、誰かを仲間に入れたり、仲間はずれにしたりすることで絶えず確認されます。こうした境界確認行動によって子どもたちは「共同体」をつくっていくのですが、このゲームがいまは「いじめ」と呼ばれる>。
つまり、“ヒトの本能である集団づくりとしての「いじめ」は、原理的に根絶できない”と結論づける。
進化論に基づいて本書が導き出す不愉快な問題の“理由”は、読んでいて気持ちのいいものばかりではない。でもそれはむやみに読者を悲観させようとしているのではなく、「『不愉快な問題を回避することはできない』というシビアな現状認識をもってこそ、本当の意味で建設的な発想ができるのではないか」というのが、本書のメッセージだ。
自己コントロール力は、消耗資源である
中には、トリビア的に思わず人に話したくなるネタもある。『ダイエットに成功すると仕事に失敗する?』の項では、こんな興味深い実験が紹介される。
同じ部屋に、焼きたてのおいしそうなチョコチップクッキーと千切りにしたダイコンを並べ、2つのグループの学生にそれぞれクッキーとダイコンを分け与える。次に学生たちにあるパズルを解くように指示するのだが、おいしいクッキーを食べた学生とダイコンを我慢して食べた学生、果たしてどちらがより集中力を発揮できたのか……?
結果はクッキー組に対して、ダイコン組は半分しか集中力が続かなかった。この実験から導かれる<自己コントロール力は消耗資源である>という説は、身近な仕事や勉強のシーンでも役立てることができそう。
<“デキる男(女)”が、いざとなると全然使えない、ということはよくあります。その反対に、ふだんはだらしないのに、仕事や勉強に異常な集中力を見せるひともいます。これも、自己コントロール力という有限な資源をどう分配しているか、ということから説明できるかもしれません>。自分に当てはめて考えてみると面白い話だ。
『不愉快なことには理由がある』は、わたしたちの凝り固まったものの見方に、進化論という要素をプラスして新たな視点を与えようとする、ある種の実験なのかもしれない。だから読み手が必ずしも本書の主張に賛成できなくても、まったく問題ないと思う。むしろ本書をきっかけに、十人十色の多様な視点が生まれることが作者の狙いなのだろう。
コンセプトを優先させたせいか若干無理があったり、誤解を生みかねない物言いになっている部分もあるが、目の前に積み重なる不愉快きわまりない問題にウンザリして目をそらしてしまうよりは、本作を読んで「なるほど~」「これは納得いかない!」なんてツッコミを入れつつタフに生きていくために多様な視点を養うほうが、よっぽど有意義だと思う。
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<子孫を残すことに成功した遺伝子が次世代に引き継がれる>
という理論のこと。では進化論を使って日本の問題を解き明かすとどうなるのか? 本書の基本姿勢は、次の一点だ。
『世の中で起きている問題の多くは、すべてヒトという生物の進化において必然的に起こってしまうもので、回避することはできない』
えぇーそんなミもフタもないこと言っちゃうの!?
本書で取り上げられている中から例をあげてみると……
・政治家が権力にしがみつくのは、権力欲が脳にプレインストールされているから
・いじめはヒトの本能から生まれるものなので、原理的に根絶できない
政治やいじめといった現代日本が抱える大問題も、
進化論を用いると、このような結論に達するのだそうだ。
ではその内容を詳しく見ていこう。
なぜ政治家は権力にしがみつくのか?
折しも日本は衆議院議員総選挙のまっただなか。各政党の主張を見比べて、「投票したいと思う党がひとつもない……もっと国のために真剣になってくれる人はいないのか」と苛立つ人もいるだろう。しかし進化論の視点からみると、人は<政治の本質が権力闘争であるという基本的なことを見逃してい>ると言う。
<多くの人は、日本の政治がダメなのは政治家がだらしないからだと考えています。しかしこの問題は、ずっとやっかいです。私たちはみんな、権力への欲望を脳にプレインストールされて生まれてきます。外部から隔離された政治空間ではその本能が理性を失わせ、“サル性”が前面に出てしまうのです。(中略)私たちが「猿の惑星」に住んでいると思えば、日本の政治でなにが起きているのかをすっきり理解できるようになります――なんの慰めにもならないでしょうが。>
遺伝子は原則として「生き残ることを最優先」する。そのために権力を手に入れようとするのは、確かに自然な行いなのかもしれない。政治家のみなさんにはそんな欲望はさっさとアンインストールしてもらって、しっかり仕事してほしいところだが……。
いじめはヒトの本能が生み出すものなので、原理的に根絶できない
次に『学校はいじめを前提に成立している』という項を読んでみる。文科省はいじめの根絶を目指しているが、いじめをなくそうとすることは<子どもに人間でいることをやめろと言うのと同じ>である、と著者は言う。
ヒトは社会的な動物であるがゆえに、自然に集団を作り、仲間意識を高めていくようプログラミングされているのだそうだ。<集団が成立するためには、「仲間」と「敵」を区別する境界が必要です。この境界は、誰かを仲間に入れたり、仲間はずれにしたりすることで絶えず確認されます。こうした境界確認行動によって子どもたちは「共同体」をつくっていくのですが、このゲームがいまは「いじめ」と呼ばれる>。
つまり、“ヒトの本能である集団づくりとしての「いじめ」は、原理的に根絶できない”と結論づける。
進化論に基づいて本書が導き出す不愉快な問題の“理由”は、読んでいて気持ちのいいものばかりではない。でもそれはむやみに読者を悲観させようとしているのではなく、「『不愉快な問題を回避することはできない』というシビアな現状認識をもってこそ、本当の意味で建設的な発想ができるのではないか」というのが、本書のメッセージだ。
自己コントロール力は、消耗資源である
中には、トリビア的に思わず人に話したくなるネタもある。『ダイエットに成功すると仕事に失敗する?』の項では、こんな興味深い実験が紹介される。
同じ部屋に、焼きたてのおいしそうなチョコチップクッキーと千切りにしたダイコンを並べ、2つのグループの学生にそれぞれクッキーとダイコンを分け与える。次に学生たちにあるパズルを解くように指示するのだが、おいしいクッキーを食べた学生とダイコンを我慢して食べた学生、果たしてどちらがより集中力を発揮できたのか……?
結果はクッキー組に対して、ダイコン組は半分しか集中力が続かなかった。この実験から導かれる<自己コントロール力は消耗資源である>という説は、身近な仕事や勉強のシーンでも役立てることができそう。
<“デキる男(女)”が、いざとなると全然使えない、ということはよくあります。その反対に、ふだんはだらしないのに、仕事や勉強に異常な集中力を見せるひともいます。これも、自己コントロール力という有限な資源をどう分配しているか、ということから説明できるかもしれません>。自分に当てはめて考えてみると面白い話だ。
『不愉快なことには理由がある』は、わたしたちの凝り固まったものの見方に、進化論という要素をプラスして新たな視点を与えようとする、ある種の実験なのかもしれない。だから読み手が必ずしも本書の主張に賛成できなくても、まったく問題ないと思う。むしろ本書をきっかけに、十人十色の多様な視点が生まれることが作者の狙いなのだろう。
コンセプトを優先させたせいか若干無理があったり、誤解を生みかねない物言いになっている部分もあるが、目の前に積み重なる不愉快きわまりない問題にウンザリして目をそらしてしまうよりは、本作を読んで「なるほど~」「これは納得いかない!」なんてツッコミを入れつつタフに生きていくために多様な視点を養うほうが、よっぽど有意義だと思う。
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