近年、映画館でミュージカルやコンサートなど、映画作品以外の映像を上映する「ODS(Other Digital Stuff・非映画コンテンツ)」に注目が高まっている。東宝では「ODS事業室」を新設し、Mr.ChildrenやAKB48、UVERworldなどを題材にした音楽ドキュメンタリー映画にも力を注いでいる。今回は東宝の古澤佳寛プロデューサー、12月21日にDVDもリリースされる映画 「Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM & 2AM~」の大道省一監督に、音楽ドキュメンタリーの現在について話を伺った。
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―― 近年、映画館でミュージカルやコンサートなど、劇映画以外の映像を上映する「ODS(Other Digital Stuffの略・非映画コンテンツのこと)」に注目が高まっています。その中で古澤プロデューサーは、Mr.ChildrenやAKB48、2PM・2AMなどといった、一連の東宝の音楽ドキュメンタリー映画の企画に携わっているとのことですが。
古澤:ODSというビジネススタイルが3年くらい前から流行り始めていたんです。映画って一本の作品を宣伝するのに、認知度がゼロに近いところから始まって 実際に来て頂くまでに認知してもらい、興味を持ってもらい、足を運んでもらうというプロセスがあるんですね。
それが人気アーティストを題材にした場合、 「このアーティストが好きだ!」って方は、そのアーティストの情報を絶えず追っているので、認知してからすぐに足を運んでもらえるというのがひとつ。そして映画館がデジタル化しているのもあって、これまではフィルムでしか上映できなかったけれど、今はビデオの素材でも簡単に上映することができる。
初期に手がけた中で1番大きい企画はやはり、Mr.Childrenの『Mr.Children / Split The Difference』ですね。この作品は2週間限定公開だったのですが、とても反響が大きくて。Mr.Childrenはほぼ毎年全国ツアーをやっていたんですが、この年はたまたまツアーがなくて。その中で「ミスチルを観に行きたい」という欲求が高まったのではないでしょうか。そこで、演奏してるところを観れる、しかもドーム級のライブ会場ではなくスタジオでのライブを収録した映像を映画館の音響でというのはものすごくレアだったのではないしょうか。リピーターの方もたくさんいらっしゃいました。
―― 「ドキュメンタリー映画」は、ライブとも違いますし、雑誌のインタビューともテレビの音楽番組とも違う。そういう部分で希少価値を見出していたのでしょうか。
古澤:Mr.Childrenの場合は、フルコーラスで楽曲を見せるシーンが結構あるんですよね。その合間インタビュー的な部分があって。普段どういったふうにメンバー同士でディスカッションしてるかとかが見て取れる。大音響で楽曲をまるまる楽しみながら、メンバーの音楽制作の日常を知れる作品になっています。
一方で、AKB48の映画は、彼女たちの活動の裏側や本音の部分をドラマチックに切り取り、ファンでなくても引き込まれる作品に仕上げています。 2PM&2AMは普段見ることのできないパーソナルな表情を追いかけ、日本での活動に密着したコアなファンの方に満足してもらえるものを目指して 作っています。アーティストによってそれぞれが全く違う作品作りになっています。
――AKB48のドキュメンタリー映画の2作目『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on少女たちは傷つきながら、夢を見る』はファン以外の方にもすごく反響があったように思えます。
古澤:1作目は製作総指揮に岩井俊二さんに入って頂いたんですが、「女の子をとにかく綺麗に撮る」というテーマがあって。インタビューを中心に「彼女たちが将来に向けてどのような夢を持って活動をしているか」を見せる作品になっていたと思います。2作目は、初期のPVからAKB48を撮り続けている高橋栄樹監督に入って頂きました。高橋監督だからこその視点で、一般の人が見ても楽しめるという部分にも意識して、「AKB48ってこんなにガチなんだ」と再認識してもらえるような作品に仕上げてもらいました。
劇場での興行収入だけで言うと、2作目は若干数字が落ちたんですよね。ただ、パッケージセールスに関して は2作目のほうが上がってるんです。あとから口コミで「すごかったよ」と広がっていったんだなと感じました。
――そして、その後にK-POPグループ・2PMと2AMのドキュメンタリー映画『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM & 2AM~』になるわけですが、これはどういった経緯で決まったんですか。
古澤:常に次の企画は探しているんですが、K-POPアーティストは、ステージ上での完成された姿というのを売りにしているというか、AKB48の様に裏側はあまり見せずに「ステージで輝いている彼らを見てください」というスタンスなんですね。とはいえ、彼らも裏で必死に努力しているし、普段はステージ上とは違う表情を持っていたりします。そのギャップみたいなものが、日本にいるファンの人達は観たいんじゃないかと思いました。
――本作は「ファン」に向けた映画である一方で、「2PMと2AMはどんなグループか」ということがファンじゃない人が見てもわかりやすく丁寧に描かれていたと思います。テンポがよく閉じた感じもないので楽しめました。監督は最初にこの話をもらったときはどう思われましたか?
大道:難しい企画だなと思いました。日韓合作みたいなもんですし。ただ、今までも難しい仕事はしてきたし、まぁなんとかなるでしょと思いながら(笑)。東宝の音楽ドキュメンタリーという、一つの枠というか路線の中での劇場デビューというのはうれしかったです。もともとプログラムピクチャーが好きな職人指向なので。だから、なにより第一にお客さんのほうを向いて作ろうと思いました。
スター10人が出演する映画として様々な要素を詰め込んで整理して。もちろん自分のやりたいことも入れつつ。例えば、空撮から始まって光と影の中で10人が勢揃いするオープニング。ドキュメンタリーとは思えないハッタリというか、いかにもドキュメンタリーな始まりにはしたくなかったんです。堂々とスケールの大きいアイドル映画を目指しました。取材する中でファンの方たちの熱量に圧倒されたのも大きいですね。
古澤:大道監督はこれまで映画『悪人』や『デトロイト・メタル・シティ』などのメイキングのディレクターを手がけていて、現場で「空気になる」ということに長けている人なので(笑)。様々な瞬間や表情を取り切るプロだと思ってオファーしました。
大道:DMCのアニメ版が古澤さんとの出会いでしたね。原作側とアニメ側の対立を軸に無茶なドキュメントを作って、川村元気プロデューサーの紹介だったのですが、あの人を完全に悪役にして(笑)。メイキングとしては黒沢清監督や李相日監督などの現場に携われて勉強になりました。それで今回、僕が32歳で古澤さんが34歳。各部のスタッフも含めて30代の若手がメインだったんです。
映画界もなかなか若い人がそこまで出やすい環境じゃない中で、もちろん要にはベテランの方もいるんですけど、同世代が集まって映画を作ることができたのは感慨深かったです。そういう部分も踏まえて、2PMと2AMという若者たちが困難を伴いながら夢に向かって走り続ける活劇ドキュメントを心がけました。
――撮影中大変だったことはありますか?
古澤:彼らは本当に忙しいんですよね。国をまたいで活動しているので、AKB48並みかそれ以上に忙しいなというのが正直なところで。監督にはすごく限定された環境で引き出してもらえたんで本当に良かったなと思いましたね。特に大変だったのは、まとめてオープニングを撮った日です。初めて10人同時に来日して、そこから夜までずっと密着して。
大道:その1日でこの映画のオープニングとエンディングの撮影を全部やって。あの空撮も含めて、夕方から夜にかけて実質半日くらいでしょうか。時間的な制限のある中で、映画としての入口と出口の部分をちゃんとやらなきゃなということで、スタッフともいろいろ打ち合わせして、「何ができる・できない」ことを考えて、その中で限界までやれたと思います。普通空撮とかやんないですもん。まぁ一番大変だったのは、いきなり500メートルの橋を全力疾走させられた10人だと思いますが(笑)。
古澤:僕らも監督の中で見えてる絵をベストに近いかたちで叶えさせてあげたかったので、それをメンバーの方にも理解してもらって。あとはこの10人が 'One day'として初めてリリースされる『One day』という曲が映画の中で10人を繋げている、それをとてもうまく表現してくれたなって。
大道:この10人のお披露目っていうか新しいスターの映画っていうか、そこからの活躍を予感させつつ、とにかくワクワクする始まりにしたいなと思いました。愚直に真正面から、ひとりひとりの顔をカメラが横移動しながらワンカットで映していって、そこからドキュメンタリーにスライドしていって。元ネタは昔の東映の仁侠映画。あんな感じでまずバシっと掴みたかったんです。それが単なるケレンではなく、ラストへの仕掛けというか伏線も兼ねながら。実際に完成披露試写会の時、初めてお客さんと一緒に完成品を観たんですけど、メンバーの顔が映るたびに「キャー!」と歓声が聞こえて。狙ったところにちゃんと届いたなと思いました。
――私が観た時も上映後にお客さんたちが感想を語り合いながらキャッキャしてるのがほほえましかったです。メンバーの印象はいかがでしたか?
大道:軍隊並みの訓練を受けて覚悟を持って日本に来てますからね。そりゃもう礼儀正しくてビックリしました。ただそれだけではなく、忙しい日々の中で自分を見失いそうになりながらも踏みとどまる青年たちの素顔、そういう瞬間も大事にしようと思いました。
あと、これは本編からはカットしたエピソードなんですが、2PMのチャンソンをインタビューした時に、日本の小説を読んでいるという話になって。東野圭吾が好きだと。で、僕もミステリは大好きで東野圭吾も 20冊くらい読んでいたので盛り上がって。チャンソンは『変身』が一番好きと言ってて。僕は『悪意』が好きで、まだ彼は読んでいなかったので、その後に完成披露試写の舞台挨拶の直前に控え室で文庫本をプレゼントしました。
――映画のDVDやBlu-rayパッケージがあまり売れないという風潮の中で、『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM & 2AM~』はAmazonのDVDランキングで総合1位を取得したと聞きました。
古澤:今年上半期にAmazonで1番売れた日本映画のパッケージって『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on少女たちは傷つきながら、夢を見る』なんですよね。但し、総合では1位を取れませんでした。Amazonで総合1位になることは数時間の出来事でもすごく大変で。映画のパッケージの売上枚数も年々減ってきていて、売上の高いパッケージジャンルといえば、アニメや音楽、音楽の中でもアイドルやK-POP が中心になってきていて。僕らのやっていることはカテゴリーとしては映画なんですが、かぎりなく音楽ジャンルに近い作品です。音楽が強い理由は思い入れの強いファンの方がたくさんいらっしゃるので、その方たちが作品を見て「面白かった」といってくださったり、よりメンバーのことを好きになってもらったりというのが、良い循環をしているのかなと思っています。
大道:そういった数字の話もありがたいですし、ひとつの評価だと思うんですが、ダイレクトにうれしかったのは映画館で偶然ファンの方に話しかけられて、「今日で観るの8回目です!」と言われたことです。リピーターの方がたくさんいるということは聞いていたのですが、実際にそういう方に会うと感動しますよね。上映される映画館が途中からどんどん増えていったのもうれしかったです。
――『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM & 2AM~』のDVDにはかなりの特典がつくと伺いました。それはどのような内容なのでしょうか。
古澤:だいたい2時間50分くらいありますね。やっぱり僕らも当然、彼らの活動に密着して、映像を撮りためているものはあるんですけど、一本の映画の尺でやると、そこで落としてしまわなきゃいけないシーンというのがどうしても出てきて。ドキュメンタリーだと特にカットされるシーンも多くなってしまうので、そ の中にファンの方にとって観たいカットや重要なカットは山ほどあるのかなと思って、それを再編集したりしたものが特典ディスクの中に入っています。また、インタビューも完全版になっていますので、コアなファンの方にも満足していただけるかなと思います。
大道:編集って落していく作業なんですよね。たとえば「インタビューのこの言葉を落とすかどうか」や「取材の時のこの表情を残すか否か」と本当に細かいところまでスタッフとディスカッションして。もう3ヶ月くらい延々と。その中で思い入れがありながら作品のためにカットした映像はたくさんあったので、こういう形で世に出せるのは嬉しいですね。また、特定の支持層がある一方でいわゆる映画ファンからは認知されにくいジャンルなのでDVD化をきっかけに更に広がるといいなと思います。
――本作の後に、UVERworldのドキュメンタリー『THE SONG』を経て、次はAKB48のドキュメンタリーの第3弾が控えていますね。今年も前田敦子さんの卒業や、指原莉乃さんのHKT移籍など様々なトピックスがあって、内容も期待できそうですが。
古澤:このドキュメンタリーに関しては、お客さんの想像を裏切るというか予定調和にしないとことが第一にあって。お客さんの期待を良い意味で裏切りたいというか。AKB48の外側から見た華やかな部分と、彼女たちが裏で流している涙みたいなものとのギャップの部分を見せていきたいです。現状、高橋監督とお話してる中で出てきているのは、AKBの「メンバー間の格差」みたいなもの、スターの子と、なかなかテレビに出れない子っていうのはありますが、普段はなかなかフォーカスされないじゃないですか。そういったことろを含めて、またAKBを知らない人が見ても面白いと思ってもらえる新たなドキュメンタリーにしたいなと考えています。
【プロフィール】
監督 大道省一
1980年、岡山県生まれ。東京造形大学在学中、自主映画『男あわれ』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門入選。大学卒業後、CM制作会社の企画演出部を経てフリーに。CM、VP、Vシネマなどを演出。『陰日向に咲く』のスピンオフドラマ『花咲け!みゃーこ』、『悪人』のドキュメントDVD『妻夫木聡が悪人だったあの二ヶ月』ほか映画関連の作品も手掛ける。『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM&2AM~』で劇場デビュー。
プロデューサー 古澤佳寛
1978年、東京都生まれ。2000年東宝株式会社入社。『DOCUMENTARY of AKB48』シリーズや『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM&2AM~』をプロデュース。現在はアニメ事業室の責任者としてTVシリーズ、劇場映画の企画開発も行っている。
【リリース情報】
12月21日(金) DVD発売
『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM & 2AM~』
初回限定生産版(3枚組) \8,190 (税込)
【DISC1】
●劇場公開版 +劇場予告編(2バージョン)
【DISC2】
●インタビュー完全版メンバー10人分
本編収録されている各メンバーのインタビューをロングバージョンで収録
【DISC3】
●《Holidays In TOKYO 完全版》
2PMの屋形船、水族館、2AMは代官山や恵比寿を歩き、東京の街を楽しむメンバーたちの素顔を再編集した完全版を収録
●2PM+2AM ‘Oneday’ 初来日完全密着ドキュメント
2012年4月10日、‘Oneday’として10人揃って初来日を果たした羽田空港から本編撮影現場までの1日を追った密着ドキュメント
●完成披露プレミア試写会 舞台挨拶
●初日舞台挨拶
●主題歌「One day」PV(DVD特別バージョン)収録
【封入特典】フォトブックレット(28P予定)
『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM & 2AM~』
通常版(1枚組) ¥3,990 (税込)
※2013年1月11日(金) DVDレンタル開始
【関連リンク】
・映画『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM&2AM~』公式サイト [ http://www.oneday-movie.jp ]
・映画『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM&2AM~』youtube公式 [ http://www.youtube.com/user/BeyondtheONEDAY ]
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「ウレぴあ総研」でこの記事の完全版を見る【動画・画像付き】
―― 近年、映画館でミュージカルやコンサートなど、劇映画以外の映像を上映する「ODS(Other Digital Stuffの略・非映画コンテンツのこと)」に注目が高まっています。その中で古澤プロデューサーは、Mr.ChildrenやAKB48、2PM・2AMなどといった、一連の東宝の音楽ドキュメンタリー映画の企画に携わっているとのことですが。
古澤:ODSというビジネススタイルが3年くらい前から流行り始めていたんです。映画って一本の作品を宣伝するのに、認知度がゼロに近いところから始まって 実際に来て頂くまでに認知してもらい、興味を持ってもらい、足を運んでもらうというプロセスがあるんですね。
それが人気アーティストを題材にした場合、 「このアーティストが好きだ!」って方は、そのアーティストの情報を絶えず追っているので、認知してからすぐに足を運んでもらえるというのがひとつ。そして映画館がデジタル化しているのもあって、これまではフィルムでしか上映できなかったけれど、今はビデオの素材でも簡単に上映することができる。
初期に手がけた中で1番大きい企画はやはり、Mr.Childrenの『Mr.Children / Split The Difference』ですね。この作品は2週間限定公開だったのですが、とても反響が大きくて。Mr.Childrenはほぼ毎年全国ツアーをやっていたんですが、この年はたまたまツアーがなくて。その中で「ミスチルを観に行きたい」という欲求が高まったのではないでしょうか。そこで、演奏してるところを観れる、しかもドーム級のライブ会場ではなくスタジオでのライブを収録した映像を映画館の音響でというのはものすごくレアだったのではないしょうか。リピーターの方もたくさんいらっしゃいました。
―― 「ドキュメンタリー映画」は、ライブとも違いますし、雑誌のインタビューともテレビの音楽番組とも違う。そういう部分で希少価値を見出していたのでしょうか。
古澤:Mr.Childrenの場合は、フルコーラスで楽曲を見せるシーンが結構あるんですよね。その合間インタビュー的な部分があって。普段どういったふうにメンバー同士でディスカッションしてるかとかが見て取れる。大音響で楽曲をまるまる楽しみながら、メンバーの音楽制作の日常を知れる作品になっています。
一方で、AKB48の映画は、彼女たちの活動の裏側や本音の部分をドラマチックに切り取り、ファンでなくても引き込まれる作品に仕上げています。 2PM&2AMは普段見ることのできないパーソナルな表情を追いかけ、日本での活動に密着したコアなファンの方に満足してもらえるものを目指して 作っています。アーティストによってそれぞれが全く違う作品作りになっています。
――AKB48のドキュメンタリー映画の2作目『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on少女たちは傷つきながら、夢を見る』はファン以外の方にもすごく反響があったように思えます。
古澤:1作目は製作総指揮に岩井俊二さんに入って頂いたんですが、「女の子をとにかく綺麗に撮る」というテーマがあって。インタビューを中心に「彼女たちが将来に向けてどのような夢を持って活動をしているか」を見せる作品になっていたと思います。2作目は、初期のPVからAKB48を撮り続けている高橋栄樹監督に入って頂きました。高橋監督だからこその視点で、一般の人が見ても楽しめるという部分にも意識して、「AKB48ってこんなにガチなんだ」と再認識してもらえるような作品に仕上げてもらいました。
劇場での興行収入だけで言うと、2作目は若干数字が落ちたんですよね。ただ、パッケージセールスに関して は2作目のほうが上がってるんです。あとから口コミで「すごかったよ」と広がっていったんだなと感じました。
――そして、その後にK-POPグループ・2PMと2AMのドキュメンタリー映画『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM & 2AM~』になるわけですが、これはどういった経緯で決まったんですか。
古澤:常に次の企画は探しているんですが、K-POPアーティストは、ステージ上での完成された姿というのを売りにしているというか、AKB48の様に裏側はあまり見せずに「ステージで輝いている彼らを見てください」というスタンスなんですね。とはいえ、彼らも裏で必死に努力しているし、普段はステージ上とは違う表情を持っていたりします。そのギャップみたいなものが、日本にいるファンの人達は観たいんじゃないかと思いました。
――本作は「ファン」に向けた映画である一方で、「2PMと2AMはどんなグループか」ということがファンじゃない人が見てもわかりやすく丁寧に描かれていたと思います。テンポがよく閉じた感じもないので楽しめました。監督は最初にこの話をもらったときはどう思われましたか?
大道:難しい企画だなと思いました。日韓合作みたいなもんですし。ただ、今までも難しい仕事はしてきたし、まぁなんとかなるでしょと思いながら(笑)。東宝の音楽ドキュメンタリーという、一つの枠というか路線の中での劇場デビューというのはうれしかったです。もともとプログラムピクチャーが好きな職人指向なので。だから、なにより第一にお客さんのほうを向いて作ろうと思いました。
スター10人が出演する映画として様々な要素を詰め込んで整理して。もちろん自分のやりたいことも入れつつ。例えば、空撮から始まって光と影の中で10人が勢揃いするオープニング。ドキュメンタリーとは思えないハッタリというか、いかにもドキュメンタリーな始まりにはしたくなかったんです。堂々とスケールの大きいアイドル映画を目指しました。取材する中でファンの方たちの熱量に圧倒されたのも大きいですね。
古澤:大道監督はこれまで映画『悪人』や『デトロイト・メタル・シティ』などのメイキングのディレクターを手がけていて、現場で「空気になる」ということに長けている人なので(笑)。様々な瞬間や表情を取り切るプロだと思ってオファーしました。
大道:DMCのアニメ版が古澤さんとの出会いでしたね。原作側とアニメ側の対立を軸に無茶なドキュメントを作って、川村元気プロデューサーの紹介だったのですが、あの人を完全に悪役にして(笑)。メイキングとしては黒沢清監督や李相日監督などの現場に携われて勉強になりました。それで今回、僕が32歳で古澤さんが34歳。各部のスタッフも含めて30代の若手がメインだったんです。
映画界もなかなか若い人がそこまで出やすい環境じゃない中で、もちろん要にはベテランの方もいるんですけど、同世代が集まって映画を作ることができたのは感慨深かったです。そういう部分も踏まえて、2PMと2AMという若者たちが困難を伴いながら夢に向かって走り続ける活劇ドキュメントを心がけました。
――撮影中大変だったことはありますか?
古澤:彼らは本当に忙しいんですよね。国をまたいで活動しているので、AKB48並みかそれ以上に忙しいなというのが正直なところで。監督にはすごく限定された環境で引き出してもらえたんで本当に良かったなと思いましたね。特に大変だったのは、まとめてオープニングを撮った日です。初めて10人同時に来日して、そこから夜までずっと密着して。
大道:その1日でこの映画のオープニングとエンディングの撮影を全部やって。あの空撮も含めて、夕方から夜にかけて実質半日くらいでしょうか。時間的な制限のある中で、映画としての入口と出口の部分をちゃんとやらなきゃなということで、スタッフともいろいろ打ち合わせして、「何ができる・できない」ことを考えて、その中で限界までやれたと思います。普通空撮とかやんないですもん。まぁ一番大変だったのは、いきなり500メートルの橋を全力疾走させられた10人だと思いますが(笑)。
古澤:僕らも監督の中で見えてる絵をベストに近いかたちで叶えさせてあげたかったので、それをメンバーの方にも理解してもらって。あとはこの10人が 'One day'として初めてリリースされる『One day』という曲が映画の中で10人を繋げている、それをとてもうまく表現してくれたなって。
大道:この10人のお披露目っていうか新しいスターの映画っていうか、そこからの活躍を予感させつつ、とにかくワクワクする始まりにしたいなと思いました。愚直に真正面から、ひとりひとりの顔をカメラが横移動しながらワンカットで映していって、そこからドキュメンタリーにスライドしていって。元ネタは昔の東映の仁侠映画。あんな感じでまずバシっと掴みたかったんです。それが単なるケレンではなく、ラストへの仕掛けというか伏線も兼ねながら。実際に完成披露試写会の時、初めてお客さんと一緒に完成品を観たんですけど、メンバーの顔が映るたびに「キャー!」と歓声が聞こえて。狙ったところにちゃんと届いたなと思いました。
――私が観た時も上映後にお客さんたちが感想を語り合いながらキャッキャしてるのがほほえましかったです。メンバーの印象はいかがでしたか?
大道:軍隊並みの訓練を受けて覚悟を持って日本に来てますからね。そりゃもう礼儀正しくてビックリしました。ただそれだけではなく、忙しい日々の中で自分を見失いそうになりながらも踏みとどまる青年たちの素顔、そういう瞬間も大事にしようと思いました。
あと、これは本編からはカットしたエピソードなんですが、2PMのチャンソンをインタビューした時に、日本の小説を読んでいるという話になって。東野圭吾が好きだと。で、僕もミステリは大好きで東野圭吾も 20冊くらい読んでいたので盛り上がって。チャンソンは『変身』が一番好きと言ってて。僕は『悪意』が好きで、まだ彼は読んでいなかったので、その後に完成披露試写の舞台挨拶の直前に控え室で文庫本をプレゼントしました。
――映画のDVDやBlu-rayパッケージがあまり売れないという風潮の中で、『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM & 2AM~』はAmazonのDVDランキングで総合1位を取得したと聞きました。
古澤:今年上半期にAmazonで1番売れた日本映画のパッケージって『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on少女たちは傷つきながら、夢を見る』なんですよね。但し、総合では1位を取れませんでした。Amazonで総合1位になることは数時間の出来事でもすごく大変で。映画のパッケージの売上枚数も年々減ってきていて、売上の高いパッケージジャンルといえば、アニメや音楽、音楽の中でもアイドルやK-POP が中心になってきていて。僕らのやっていることはカテゴリーとしては映画なんですが、かぎりなく音楽ジャンルに近い作品です。音楽が強い理由は思い入れの強いファンの方がたくさんいらっしゃるので、その方たちが作品を見て「面白かった」といってくださったり、よりメンバーのことを好きになってもらったりというのが、良い循環をしているのかなと思っています。
大道:そういった数字の話もありがたいですし、ひとつの評価だと思うんですが、ダイレクトにうれしかったのは映画館で偶然ファンの方に話しかけられて、「今日で観るの8回目です!」と言われたことです。リピーターの方がたくさんいるということは聞いていたのですが、実際にそういう方に会うと感動しますよね。上映される映画館が途中からどんどん増えていったのもうれしかったです。
――『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM & 2AM~』のDVDにはかなりの特典がつくと伺いました。それはどのような内容なのでしょうか。
古澤:だいたい2時間50分くらいありますね。やっぱり僕らも当然、彼らの活動に密着して、映像を撮りためているものはあるんですけど、一本の映画の尺でやると、そこで落としてしまわなきゃいけないシーンというのがどうしても出てきて。ドキュメンタリーだと特にカットされるシーンも多くなってしまうので、そ の中にファンの方にとって観たいカットや重要なカットは山ほどあるのかなと思って、それを再編集したりしたものが特典ディスクの中に入っています。また、インタビューも完全版になっていますので、コアなファンの方にも満足していただけるかなと思います。
大道:編集って落していく作業なんですよね。たとえば「インタビューのこの言葉を落とすかどうか」や「取材の時のこの表情を残すか否か」と本当に細かいところまでスタッフとディスカッションして。もう3ヶ月くらい延々と。その中で思い入れがありながら作品のためにカットした映像はたくさんあったので、こういう形で世に出せるのは嬉しいですね。また、特定の支持層がある一方でいわゆる映画ファンからは認知されにくいジャンルなのでDVD化をきっかけに更に広がるといいなと思います。
――本作の後に、UVERworldのドキュメンタリー『THE SONG』を経て、次はAKB48のドキュメンタリーの第3弾が控えていますね。今年も前田敦子さんの卒業や、指原莉乃さんのHKT移籍など様々なトピックスがあって、内容も期待できそうですが。
古澤:このドキュメンタリーに関しては、お客さんの想像を裏切るというか予定調和にしないとことが第一にあって。お客さんの期待を良い意味で裏切りたいというか。AKB48の外側から見た華やかな部分と、彼女たちが裏で流している涙みたいなものとのギャップの部分を見せていきたいです。現状、高橋監督とお話してる中で出てきているのは、AKBの「メンバー間の格差」みたいなもの、スターの子と、なかなかテレビに出れない子っていうのはありますが、普段はなかなかフォーカスされないじゃないですか。そういったことろを含めて、またAKBを知らない人が見ても面白いと思ってもらえる新たなドキュメンタリーにしたいなと考えています。
【プロフィール】
監督 大道省一
1980年、岡山県生まれ。東京造形大学在学中、自主映画『男あわれ』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門入選。大学卒業後、CM制作会社の企画演出部を経てフリーに。CM、VP、Vシネマなどを演出。『陰日向に咲く』のスピンオフドラマ『花咲け!みゃーこ』、『悪人』のドキュメントDVD『妻夫木聡が悪人だったあの二ヶ月』ほか映画関連の作品も手掛ける。『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM&2AM~』で劇場デビュー。
プロデューサー 古澤佳寛
1978年、東京都生まれ。2000年東宝株式会社入社。『DOCUMENTARY of AKB48』シリーズや『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM&2AM~』をプロデュース。現在はアニメ事業室の責任者としてTVシリーズ、劇場映画の企画開発も行っている。
【リリース情報】
12月21日(金) DVD発売
『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM & 2AM~』
初回限定生産版(3枚組) \8,190 (税込)
【DISC1】
●劇場公開版 +劇場予告編(2バージョン)
【DISC2】
●インタビュー完全版メンバー10人分
本編収録されている各メンバーのインタビューをロングバージョンで収録
【DISC3】
●《Holidays In TOKYO 完全版》
2PMの屋形船、水族館、2AMは代官山や恵比寿を歩き、東京の街を楽しむメンバーたちの素顔を再編集した完全版を収録
●2PM+2AM ‘Oneday’ 初来日完全密着ドキュメント
2012年4月10日、‘Oneday’として10人揃って初来日を果たした羽田空港から本編撮影現場までの1日を追った密着ドキュメント
●完成披露プレミア試写会 舞台挨拶
●初日舞台挨拶
●主題歌「One day」PV(DVD特別バージョン)収録
【封入特典】フォトブックレット(28P予定)
『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM & 2AM~』
通常版(1枚組) ¥3,990 (税込)
※2013年1月11日(金) DVDレンタル開始
【関連リンク】
・映画『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM&2AM~』公式サイト [ http://www.oneday-movie.jp ]
・映画『Beyond the ONEDAY ~Story of 2PM&2AM~』youtube公式 [ http://www.youtube.com/user/BeyondtheONEDAY ]
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