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深海と深海魚のお話

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深海はなぜ人をひきつけるのでしょうか。それは今なお人間の探査の行き届かない「未知の世界」であり、また「未知な生物」がいるからではないでしょうか。深海とそこに住む深海魚について大気海洋研究所 海洋生物資源部門 資源生態分野の猿渡敏郎助教(農学博士)にお話を伺いました。





――深海と一口に言いますが、どのくらいの深さから深海になるのでしょうか?

猿渡博士 大陸棚が大体200メートルくらいの深さで終わります。広い意味ではここから下の海は「深海」です。狭い意味では4,000メートルより下のより深い海を「深海」と呼ぶこともありますが。

――では広義の意味では、200メートルより下の海にすんでいる魚は深海魚と呼んでもいいのでしょうか。

猿渡博士 そうですね。みなさんが一般的に思っている深海魚のイメージとは異なるかもしれませんが。

猿渡博士 海の平均的な深さを知っていますか?

――いいえ。

猿渡博士 大体3,800メートルぐらいだと言われています。つまり富士山の標高3,776メートルでまだ足りないぐらい深いわけです。地球の表面積のうち7割が海、そして海の平均水深が3,800メートル、広義の意味では200メートルよりは深海だとすると……。

――そうなると、海はほとんど深海と言ってもいいぐらいですね。

猿渡博士 そういうことですね。

■「チョウチンアンコウ」の面白い話

――猿渡先生のご専門で大きな発見があったということですが?

猿渡博士 「ミツクリエナガチョウチンアンコウ」が網にかかりましてね。それが素晴らく状態のいいもので、そこで大きな発見がありました。

――どんなことでしょうか。

猿渡博士 チョウチンアンコウの仲間は、メスの個体が大きくて、オスの個体が極端に小さいというのをご存じですか?

――はい。聞いたことがあります。交尾のためにメスの体に寄生して、そのうちメスに吸収されるという話を聞いたことがあります。

猿渡博士 ところがですね、私が発見したこのミツクリエナガチョウチンアンコウですが、メスで体長が316.5ミリメートルもある大きなものなんですが、体表に小さなオスが8匹も寄生していたんです。

――えっ。そんなに数が付くものなんですか?

猿渡博士 しかもですね、メスに吸収されるといった状態ではなかったんです。「腹鰭」(はらびれ)など、オスの鰭(ひれ)もきちんと確認できましたし。メスの体内に同化されるような様子も見られませんでした。また、調べてみると、明らかにメスから栄養をもらっていることもわかりました。

――では、私が聞いたような話は誤りなんでしょうか?

猿渡博士 もっと詳しく調べる必要があると思います。しかも、このミツクリエナガチョウチンアンコウは面白いことに二系統の発光器官を持っているんです。

――チョウチンアンコウの、あのちょうちんの部分ですよね。

猿渡博士 そうです。あのサオの先の部分が光るのは(共生関係にある)発光バクテリアのおかげなんです。そのほかに、背鰭(せびれ)の前にプラプラした肉の塊みたいな部分があって、そこに発光液をためているんですよ。この発光液は、エビなど食べたエサから吸収するんです。普通は、このどちらか一方の種類の発光器しか持っていないんですが、ミツクリエナガチョウチンアンコウは2種類持っているんです。

――サオの方は、エサになる生き物をひきつけるのに使うのでわかります。ためた発光液は何に使うんですか?

猿渡博士 おそらく危険に遭った時に、ぱっとまいて目くらましに使うんでしょう。網にかかった時も青白い液体が出ていたので、最初はオスの精液かなと思ったんですが違っていました。網にかかった際に発光液を分泌したのだと思います。

――このようなキレイな個体を手にすることは難しいのでしょうね。

猿渡博士 そうなんですよ。だから最初見た時からずっとテンションが上がりっぱなしでしたね(笑)。

■なぜ発光器があるのか!?

――発光器官があるのが不思議な気がするのですが。

猿渡博士 深海の生き物には発光器を持つものが確かに多いです。

――なぜなんでしょうか? 光っているとかえって目立って食べられちゃうような気がするんですが。

猿渡博士 いろいろと考えられます。チョウチンアンコウのサオの発光はエサを集めるためですし、体の下に発光器を持つものは防衛のためだと考えられています。自分の輪郭をぼかすためだと言われています。

――輪郭をぼかすために光るんですか?

猿渡博士 太陽の光はほとんど届かないですが、それでも光は上から来ます。捕食者に下から見られると、光に自分のシルエットが浮かび上がってしまいます。なので、発光器から下の方に光を放てば、それを防ぐことができるわけです。

――なるほど。

■漁業による採集は水深500メートルぐらいまで!

――サンプルを入手することを考えると、深海探査、深海魚の研究というのは難しいんですね。

猿渡博士 ええ。例えばトロール漁船に網を出してもらって、何かかからなければおしまいですし。トロール漁船の網というのは大体500メートルぐらいの深海までをさらうんですが、それより深いところにすむ生き物のことは調べるのが困難です。

――その場合はどうするんでしょうか?

猿渡博士 やはり調査船や潜水艇の力を借りないといけません。日本には『淡青丸』、『白鳳丸』といった学術研究船のほかに、『しんかい6500』という非常に優秀な潜水艇があります。

――日本の深海探査技術というのは、世界的に見ても優秀なのですか?

猿渡博士 優秀だと思います。技術開発も熱心ですし、また魚類だけではなく、無脊椎(せきつい)動物の研究、鉱物資源など、深海にあるさまざまなもの、現象を研究する科学者がたくさんいますので。

――研究用の深海探査機材などはみんなで使用しているのですか?

猿渡博士 そうですね。こういう研究をしたいのでこの期間研究船を使用したいといった「プロポーザル」を出します。審査でダメだなあと思われたら、そこではねられちゃうんで(笑)、そうなるとガッカリですね。

■生きたまま地上に持って来れるか!?

――深海生物の研究で困難なことは何でしょうか?

猿渡博士 深海の生き物を生かしたまま陸上まで持ってくることですね。深くなるにつれて水温は下がります。水温が急激に下がる層があって、それを超えるとさらに冷えていきます。また、深度10メートルで1気圧、平均水深3,800メートルなら381気圧というとてつもない水圧のかかった世界で生きている生き物たちです。これを上にそのままあげたりすると、大抵の生き物は死んでしまいます。

――ダイバーなどもやられますね。

猿渡博士 目が飛び出たり、浮袋が口から出たりとか、そういうわかりやすい症状もあれば、ヒトの潜水病のように毛細血管の先の方で窒素ガスが気化して肝臓など重要な臓器を破壊したりします。減圧症を防いで、深海生物を陸上にまで持ってこられたら大きな成果が得られるでしょう。

――可能なんでしょうか?

猿渡博士 なんとか実現しようとしています。スラープガン(吸引式深海生物採集器)という水鉄砲とは逆に水と一緒に生物を吸い込む装置があるんですが、それで生物を水ごと捕獲して、それを加圧装置つきの設備に入れたりするわけです。先ほどの「しんかい6500」にそのような装置を付けた試みも行われています。

――それは楽しみですね。

猿渡博士 ただ、まだ入れることのできるのが小さな生物だけのようなので、そこが残念ですが。でも少しずつ前進していますよ。いつか水族館でチョウチンアンコウの姿が見られるようになるかもしれない。私も見てみたいと思います。ぜひとも実現させたい夢ですね。

■人はなぜ深海生物が好き!?

――深海生物が人を魅了するのはなぜだと思われますか?

猿渡博士 やはり形がヘンだからでしょうね(笑)。グロテスクなものも含めて、人はヘンなものにひかれますから。

世界中で研究者が深海を探っていますが、いまだに新種発見! など、驚きのニュースが絶えません。深海はこれからも私たちを魅了し続けるのではないでしょうか。

(高橋モータース@dcp)

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