ニューヨークとニュージャージー州に壊滅的な被害をもたらしたハリケーン「サンディ」。経済損失はおよそ4兆円、最大時は本州をも飲み込む直径1,600kmにも達したというから、すべてがケタ違いだ。
もしも日本に巨大台風が来たらどうなるのか? 暴風、豪雨、高潮から始まり、河川の氾濫も免れない。東京直撃なら首都機能を失い、亡国と化すだろう。
■雲という名の悪魔
台風は、陸地や海面と大気の温度差から生まれる。温度差は上昇気流を発生し、周囲よりも気圧が低い低気圧となる。寒気と暖気が衝突すると温帯低気圧、海面の温度が上がった場合は熱帯低気圧と呼ばれるのだが、これらを総称してサイクロンと呼ぶ。
上昇気流は雲をつくる。とくに熱帯低気圧は海面から大量の熱と水蒸気を運ぶため、数十平方kmもの積乱(せきらん)雲が発生する。積乱雲は上空の空気を温めあらたな上昇気流を生み出し、海面からの熱と水蒸気の吸い上げを加速する。上昇気流、雲、あらたな上昇気流、あらたな雲を繰り返すうちに巨大な積乱雲ができ上がる。1万平方km(=100km四方)にもなると、東京ドーム320杯相当の4億トンもの水分が含まれるというから驚きだ。
この巨大な積乱雲は、コリオリの力によって回転しはじめる。地軸を中心に地球をスライスすると、赤道上では最大の、極に向かうほど小さな円となる。この直径の差が速度差となり、回転のきっかけとなるのだ。
回転が始まれば台風の完成だ。きのこ状になった雲は、回転しながら柄の下部から空気を吸い上げ、傘の上部から暴風を吹き出す。ちなみに台風とハリケーンは、居場所によって呼び名が異なるだけで構造に違いはない。
ジェット・エンジンのように吸気と排気が相乗効果をもたらし、凄まじい力で海面を引き上げる。中心気圧が950hPa(ヘクト・パスカル)となったサンディは、海面を吸い上げ4mもの高潮を発生させたほどである。海水1ccを1.02g、高潮を少なく見積もって直径100m・高さ4mの円すいと仮定しても、およそ1万トンもの海水が吸い上げられた計算となる。
さすがサイクロン。吸引力の変わらない、ただひとつの方法だ。
■東京壊滅のシナリオ
暴風の被害はどうなるか? 気象庁の資料によると、風速(m/秒)と人への影響、建造物の被害は以下の通りだ。
・10~15 傘がさせない / 取り付けが不完全な看板が飛ぶ
・15~20 転倒する人がでる / ビニールハウスが壊れる
・20~25 身体を確保しないと転倒する / 鋼製シャッターが壊れる
・25~30 立っていられない / ブロック塀が壊れる
・30以上 屋外での行動は危険 / 木造住宅の全壊が始まる
サンディの最大風速40m/秒なら、電車を横転させることも可能だ。
降水量をみると、強い雨と定義されている毎時20~30mmでは側溝や下水があふれ出し、50~80mmの非常に強い雨では傘はまったく役に立たず、マンホールから水が噴出する。80mmを超える猛烈な雨では息苦しくなるような圧迫感を感じる。ここまでくると排水も機能しないから、地域によっては降った分だけ水位が増すことになる。1時間で8センチとあなどるなかれ。12時間半後には水位1mになるのだから。
もし東京を直撃したらどうなるか? 豪雨と高潮による河川の氾濫は避けられない。内閣府の資料によると、荒川が氾濫した場合、17路線97駅、延べ147kmが浸水し、およそ3時間後には大手町など都心部の駅も水没する。排水施設が稼働しない最悪のケースでは死者4,500人、116万人の居住地域が浸水、51万人が孤立し救助までに7日間を要する。
海水混じりの暴風は電力網をショートさせ、関東一円に停電を引き起こす。水没した機器や設備は、水が引いても使いものにならない。台風が去った後も、ライフライン、通信、交通のすべてが復旧するまで、東京は、首都はおろか街としての機能も果たさない。
日本の中枢は別のところに引っ越すのが良いだろう。
■まとめ
温暖化が進むと、風速45m/秒以下の台風は減ると予測されている。海水と大気の温度差が小さくなり、上昇気流が弱まるのが理由だ。
ただし海水温は今よりも高いのだから、ひとたび上昇気流が発生すれば、大量の水蒸気によって巨大台風が誕生する。54m/秒超の「猛烈な台風」が増え、70~80m/秒クラスも頻発する。海水面温度が2℃上昇すると、最大風速が5~10%、降雨量は20~30%増加するというから、サンディ級が日本を襲うのも遠い未来ではない。
サンディの被害に遭われた方々のご冥福を祈りつつ、一日も早い復旧を願う。
(関口 寿/ガリレオワークス)
【関連リンク】
【コラム】もしも科学シリーズ(15)もしも宇宙が死んだら
【コラム】もしも科学シリーズ(14)もしも反物質を拾ったら
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もしも日本に巨大台風が来たらどうなるのか? 暴風、豪雨、高潮から始まり、河川の氾濫も免れない。東京直撃なら首都機能を失い、亡国と化すだろう。
■雲という名の悪魔
台風は、陸地や海面と大気の温度差から生まれる。温度差は上昇気流を発生し、周囲よりも気圧が低い低気圧となる。寒気と暖気が衝突すると温帯低気圧、海面の温度が上がった場合は熱帯低気圧と呼ばれるのだが、これらを総称してサイクロンと呼ぶ。
上昇気流は雲をつくる。とくに熱帯低気圧は海面から大量の熱と水蒸気を運ぶため、数十平方kmもの積乱(せきらん)雲が発生する。積乱雲は上空の空気を温めあらたな上昇気流を生み出し、海面からの熱と水蒸気の吸い上げを加速する。上昇気流、雲、あらたな上昇気流、あらたな雲を繰り返すうちに巨大な積乱雲ができ上がる。1万平方km(=100km四方)にもなると、東京ドーム320杯相当の4億トンもの水分が含まれるというから驚きだ。
この巨大な積乱雲は、コリオリの力によって回転しはじめる。地軸を中心に地球をスライスすると、赤道上では最大の、極に向かうほど小さな円となる。この直径の差が速度差となり、回転のきっかけとなるのだ。
回転が始まれば台風の完成だ。きのこ状になった雲は、回転しながら柄の下部から空気を吸い上げ、傘の上部から暴風を吹き出す。ちなみに台風とハリケーンは、居場所によって呼び名が異なるだけで構造に違いはない。
ジェット・エンジンのように吸気と排気が相乗効果をもたらし、凄まじい力で海面を引き上げる。中心気圧が950hPa(ヘクト・パスカル)となったサンディは、海面を吸い上げ4mもの高潮を発生させたほどである。海水1ccを1.02g、高潮を少なく見積もって直径100m・高さ4mの円すいと仮定しても、およそ1万トンもの海水が吸い上げられた計算となる。
さすがサイクロン。吸引力の変わらない、ただひとつの方法だ。
■東京壊滅のシナリオ
暴風の被害はどうなるか? 気象庁の資料によると、風速(m/秒)と人への影響、建造物の被害は以下の通りだ。
・10~15 傘がさせない / 取り付けが不完全な看板が飛ぶ
・15~20 転倒する人がでる / ビニールハウスが壊れる
・20~25 身体を確保しないと転倒する / 鋼製シャッターが壊れる
・25~30 立っていられない / ブロック塀が壊れる
・30以上 屋外での行動は危険 / 木造住宅の全壊が始まる
サンディの最大風速40m/秒なら、電車を横転させることも可能だ。
降水量をみると、強い雨と定義されている毎時20~30mmでは側溝や下水があふれ出し、50~80mmの非常に強い雨では傘はまったく役に立たず、マンホールから水が噴出する。80mmを超える猛烈な雨では息苦しくなるような圧迫感を感じる。ここまでくると排水も機能しないから、地域によっては降った分だけ水位が増すことになる。1時間で8センチとあなどるなかれ。12時間半後には水位1mになるのだから。
もし東京を直撃したらどうなるか? 豪雨と高潮による河川の氾濫は避けられない。内閣府の資料によると、荒川が氾濫した場合、17路線97駅、延べ147kmが浸水し、およそ3時間後には大手町など都心部の駅も水没する。排水施設が稼働しない最悪のケースでは死者4,500人、116万人の居住地域が浸水、51万人が孤立し救助までに7日間を要する。
海水混じりの暴風は電力網をショートさせ、関東一円に停電を引き起こす。水没した機器や設備は、水が引いても使いものにならない。台風が去った後も、ライフライン、通信、交通のすべてが復旧するまで、東京は、首都はおろか街としての機能も果たさない。
日本の中枢は別のところに引っ越すのが良いだろう。
■まとめ
温暖化が進むと、風速45m/秒以下の台風は減ると予測されている。海水と大気の温度差が小さくなり、上昇気流が弱まるのが理由だ。
ただし海水温は今よりも高いのだから、ひとたび上昇気流が発生すれば、大量の水蒸気によって巨大台風が誕生する。54m/秒超の「猛烈な台風」が増え、70~80m/秒クラスも頻発する。海水面温度が2℃上昇すると、最大風速が5~10%、降雨量は20~30%増加するというから、サンディ級が日本を襲うのも遠い未来ではない。
サンディの被害に遭われた方々のご冥福を祈りつつ、一日も早い復旧を願う。
(関口 寿/ガリレオワークス)
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