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今夜金曜ロードSHOW「借りぐらしのアリエッティ」異常な人間たちに振り回される小人の理不尽

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『借りぐらしのアリエッティ』は地味な映画である。でも地味なだけかと言うとそうでもない。なんというか、致命的な説明不足のおかげで登場人物たちからそこはかとない狂気が滲み出ているように見える。どうしても黙って見ていられない、突っ込みを入れたくなる映画だ。

「ジブリっぽくない」とだけは言わせない、圧巻のディテール
『借りぐらしのアリエッティ』は2010年に公開されたスタジオジブリ製作による長編アニメーション映画。原作はメアリー・ノートンのファンタジー小説『床下の小人たち』で、企画や脚本が宮崎駿、監督が新作『メアリと魔女の花』の公開も控えている米林宏昌だ。当然のように2010年の邦画興行収入第一位となった作品であり、日本テレビ系の「金曜ロードSHOW!」で今夜21時から放送される。

『アリエッティ』の本編が始まってすぐ、画面に映るのは「いかにもジブリアニメ!」という要素ばかりだ。多摩ナンバーの車、草木が生い茂る庭の中の古びた大きな一軒家。そして人間に見つからないように暮らしている小人たち。日常的な風景のすぐそばに小人たちが住む異界が広がっており、色鮮やかで暮らしやすそうな家でひっそりとオーガニックな生活を営んでいる。なんというか、隙がない。「監督は宮崎駿じゃないけど、ジブリ作品っぽくないという文句だけは言わせない」という迫力がある。

実際この映画の前半戦のディテール描写はけっこう見事だ。小人たちが飲む水やお茶は表面張力でぼってりとしか注げないし、アリエッティが初めて「借り」のために人間の使う台所に入った時に大きく聞こえてくる冷蔵庫の音など「極小の世界から人間の生活空間を見る」という面白さは伝わってくる。父ポッドの「両面テープとロープを使って人間用の棚や机によじ登る」という工夫も楽しい。ディテールは丁寧で面白いのだ。地味だけど。

まともな小人の皆さん、変な人間たちに翻弄される
この映画、アリエッティたち小人サイドのキャラクターに対しては説明がちゃんとしている。おてんばで活発なアリエッティ。実直で無口な父親のポッド。家族のことを心配しすぎてつい小言が多くなってしまう母親のホミリー。アリエッティが最初の「借り」に出かけるまでの間でけっこうちゃんと「この人はどういうキャラなのか」が説明されるし、過不足がない。

しかし、やばいのは人間サイドの皆さんである。まず映画の冒頭で引っ越して来る翔がやばい。「体が弱い」ということはわかるんだけど、アリエッティたち小人と接触したがったかと思えば、小人たちの家を破壊してドールハウスの台所を放り込み、ようやく姿を現したアリエッティに怒られて反省したかと思えば「君たちは滅びゆく種族なんだよ……」となんだか恐ろしげなことを言い出す。しかも常にテンションが一定。怖い。どうでもいいけどアリエッティに向かって「君はこの世界にどのくらいの人間がいるか知ってる? 67億人だよ」って言い出した時には「ブルゾンちえみかよ」って声に出して言っちゃいました……。

いや、わかるんですよ。13歳だかで心臓が悪くて死ぬかもしれない手術が控えてて、そんでその状況で小人が登場したんでしょ。混乱してるしニヒリスティックな反応になることはわかる。しかしこの翔くん、前述のように終始冷静で落ち着いた静かなトーンでボソボソ喋り、それなのに行動に一貫性がない美少年というキャラクターのため、正直けっこう危ない奴っぽい空気が出ちゃってるのだ。なんとなくですけど、翔くんって小人の家に火を放ってボーボー燃えるのを見ながら「わあ、きれいだな(神木くんボイス)」とか言いそうじゃないですか?

もっとすごいのが家政婦のハルさんである。老眼鏡を使って執拗に小人の痕跡を探り、翔がアリエッティと接触した証拠を全力で探すおばさんなんですけども、とにかくもうこの人が怖い。駐車マナーが悪く、仕事そっちのけで小人を追いかけ回し、捕獲のために害虫の駆除業者まで呼ぶ。顔芸も濃いし、声優を務めた樹木希林の怪演も相まって劇中最大のインパクトをもたらすキャラクターになっている。

あとでWikipediaを見て知ったのだけど、このハルさんが執拗に小人を追跡し続けたのは「かつて小人を見たのに誰にも信じてもらえなかった悔しさを晴らすため」だそうだ。けど、そのことは劇中で一度も説明されないのである。いや、一言くらい言ってくれれば「ああこの人も悔しい思いをしたのだな」と納得して見られるけど、それがないから「性格の悪いおばさんが顔芸しながら自分よりずっと小さい生き物を執拗に追う」という感じにしか見えない。だいたいなんで害虫駆除の業者呼んだの……? 小人を絶滅させたかったの……? 悔しかっただけなら駆除する必要なくない……?

一見まともなジブリ映画に見えて、「変な人間たちに振り回されたばっかりに、ひっそりと暮らしていた小人が引っ越しを余儀なくされる」という理不尽極まるストーリー。冷静に見るとかなりひどい、救いのない映画である。ただこういう話なので、正直実況には向いていると思う。今夜の放送では筆者もパソコンをにらみつつ、サイコな登場人物に振り回されるアリエッティの冒険を再確認したい。
(しげる)

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